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明日世界が滅ぶ前兆かもしれない

気もそぞろに部下の挨拶に返答し、遠ざかるヘッドライトを見守る余裕もなく、海輝は目の前のマンションを見上げる。 浮足立つ思いに相反し、酷く緊張していた。 相手がパワハラ上司だろうと、血統主義で男尊女卑な頭の固い朝比奈家幹部だろうと緊張などした事は無い。 それどころか、パワハラ上司の肩に馴れ馴れしく手を回し、厭らしい笑みで揶揄いの言葉を投げ、朝比奈上層部の爺共を時折卑猥な言葉を入り交ぜ嫌味に嫌味を倍にして返し、怒髪天を衝いた相手にウィンクや投げキスするような男である。 人を舐め切った態度を平気で取るワイヤーの如きに図太い神経、レーザーを十年当てても消滅しないだろう剛毛を心臓に生やしている等と噂される様な男が今、手に汗を握り拳を震わせ期待と不安の入り交じる顔でマンションを見上げている。 ――明日世界が滅ぶ前兆かも知れない。 歓喜の極致に至り、ただ単に体が付いて行っていない結果と結論付ける。 興味の対象外に対する無関心さ故の優しさか、敵意故の揶揄と攻撃のみで全てラベリングする海輝にとって、たった一人の義弟だけは違うのだ。

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