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国境を超える気分
ついに錦と同じ建物内に入る。
国境を超える気分だ。胸の高鳴りと興奮を抱え足を一歩踏み出す。
ルームフレグランスもソープ系に変えた。
シャワー上がりを思わせる清潔感と、淡く掠める程度の香調を錦は好むのだ。これは、彼と出会って間もない頃に知った。
錦が使用する着替え、嗜好品に洗面用品に至るまで準備万全だ。フラワーアレンジメントに食卓、水槽設置等インテリアも問題ない。
部屋の掃除、冷蔵庫にある食材も調味料の取り揃えも完璧だ。
何時も以上に丁寧にベッドメイクも済ませた寝室には不自然にならない程度の錦の写真のみ残して、壁に貼り付けまくった写真(隠し撮り含む)は一応剥がして大事に保管している。
錦が目にして困る所も、海輝の部屋で過ごす際に不便に思う所も無いはずだ。
マンションの自動ドアをハンズフリーで解錠し、玄関前で端末認証にカードリーダーをかざし木製の扉を潜る。エントランスへ入れば、朝見た通りカウンター越しに常駐するコンシェルジュが笑顔を見せた。
コンシェルジュには事前に義弟が訪問すると伝えてるので、登録したセキュリティ認証カードが手渡され問題なく部屋に案内されてるはずだ。郵便物を回収し玄関と同じようにセキュリティ解除しエレベーターに乗り込む。
共有ロビーのソファで談笑する住人、笑顔で朝夕挨拶を交わすコンシェルジュ。最新の防犯設備で守られた建物の内装。
代わり無い筈の風景が何だかすべて異なって見える。
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