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控えめに言って世界遺産を超える。

幻だが幻ではない。 ダイニングキッチンに天使が降臨していた。 鳥獣戯画の兎と蛙がモデルウォークしている刺繍が入る割烹着と、白い三角巾を着けた錦が俯き加減で菜箸をうごかしている。 床に落とした鞄の音にはっと顔を上げた錦が、わずかに眼を見開く。 驚いた顔が、兎に角可愛い。 控えめに言って世界遺産を超える。 「すまない。気が付かなかった」 髪の毛がサラサラしすぎて三角巾に綺麗に収まっていないのが可愛い過ぎる。 「いつの間に帰ってきたんだ? 居たなら声位かけてくれ」 割烹着と三角巾を付けた高校生の恋人。 恋人と言うかもはや海輝の中では妻の位置にいる。 妻、妻か。 美人で人妻で新妻で幼妻とかって男の浪漫とトキメキ特盛ではないか。 錦は小さく咳払いをしてこちらを見る。 「お帰り海輝」 お帰りだと? 少し照れた顔で海輝を迎える姿に物凄い後光が見えた。 リンゴンリンゴンと鳴り響く教会の鐘の音に天使がラッパを吹いている。

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