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彼岸からのご帰還だ
「お仕事お疲れさま。丁度夕食も出来た所だ」
久々の再会にも関わらず、昨日も一緒に居たかのような静けさがあった。
驚くでもなく、ごくごく自然に、そっけないと思う程に錦は淡々としている。
海輝は小首をかしげ錦を見つめる。わずかに反らされた視線やほんのり染まる耳朶を見て、口元が緩む。何て事は無い。
ただ単純に、彼も照れているのだ。
「もしかして、先に入浴の方が良かったか?」
まさかの、ご飯? お風呂?
新婚定番のフレーズである。
全員海輝の顔をした脳内審査員四人が合格の札を上げる。
そうだろうとも。満場一致で合格だと思っていたら、五人目の審査員の札だけ色が異なる。なんと、一人だけ不合格の札を手にしているではないか。
照れながらなのが可愛いとか、初々しいとか、良い匂いしそうクンクンとか、新妻感が出て来たとか各々好きな事を喋ってる。
脳内が煩い。審査員四人は一通り好きな事を喋り終えた後、五人目の審査員に回し蹴りを食らわせた。
貴様この非国民め。貴様の所為で満場一致ではなくなった。錦君の事で否定する事など何一つない。裏切者。この売国奴め悪魔に魂を売ったか!と激怒し、不合格の札をあげた審査員をフルボッコにした。
あぁ、あれは死んだな。
しかし、何故一人だけ不合格だったのだろう。
死に際のお言葉を耳にすれば、残念ながら、それとも私? が選択肢の中に無いためマイナスとなったと言い残し事切れる。
ご飯より錦君を食い散らかしたい。
落ち着け海輝。相手は新妻だぞ。
「どうした海輝? 座れ」
「一万点からマイナス一点だ。大したことは無いのでやはり合格だ」
「は?」
「いや、こちらの事だ」
脳内劇場を繰り広げる狂人は錦の声で我にかえる。
彼岸からのご帰還だ。
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