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頭の中で理性と欲望が殴り合いをはじめた

ホカホカと湯気を立てる白米になめこと豆腐の味噌汁。 茹で卵を添えた大根と鶏もも肉の煮物。ワカメと胡瓜の酢の物の入る小鉢を並べる。 照りの有る鶏肉と、淡い色の出汁を吸い上げた大根が特に旨そうだ。 口の中で唾液が滲む。 温かな茶を入れ終え錦が照れた顔で「冷める前に食べようか」と誘う。 可愛い可愛すぎる。大好き可愛い。 可愛すぎてもはや暴力だ。 渾身の力で抱きしめたい。抱きしめて思い切り噛みつきたい。肌を舐めまわしたい。海輝は錦が可愛くて仕方がないと常日頃思っている。しかし、今のように凶暴な気持ちを抱いたことは無い。 成程、これがキュートアグレッションか。 正直海輝にとって正しい情報処理とは言えない。 錦に暴力的な感情は抱いてはいけないものなのだ。 「ほっ……」 「早く座れ」 三角巾を取り小首をかしげると、サラサラと髪の毛が流れる。 黒目がちの円らな瞳、小振りな唇が柔らかそうで…… 「ほんぎゃあああああ」 ――その瞬間ゴングが鳴り響き、頭の中で理性と欲望が殴り合いをはじめた。

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