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「ところで錦君。年末工事の予定を早めるのはどうかな」

「美味しい美味しすぎる。鶏肉蕩けそう。うんうん僕好みだ」 美味しいのは当たり前だと始めは偉そうな態度をとっていた錦だが、一口食べる度に過剰に褒めるので恥ずかしいのか目を伏せる。 終いには無言になってしまった。海輝はその顔を見ながら「炊飯器空に出来る」と興奮する。 可愛い。 頬を赤くした錦がもそもそと大根を咀嚼する。 可愛い。 小さな口を動かしていると次第に不機嫌そうな顔が緩んでいく。 料理の出来が良かったので満足しているのだと推測する。 可愛すぎる。 海輝はうっとりと見つめる。 不躾だとは思うが不可抗力だ。 錦と海輝はエス極とエヌ極同様に引きあう運命なのだ。 兎に角可愛い。 小さな口で物を食べる姿が可愛い。 「んふふふ。美味しい。世界一美味しい」 賛辞を繰り返す海輝と、褒め言葉に見合った出来栄えに錦の機嫌は完全に直っていた。 「ところで錦君。年末工事の予定を早めるのはどうかな」 モグモグと口を動かす姿を見て、何となく言ってみる。 小さな唇が動きを止め、コクリと嚥下する。 円らな瞳が二度瞬きをするのを見て、意味が理解できなかったかと判断する。 ここで、無かった事にするか言い方を変えるべく、ストレートかつソフトな言葉を吟味するか。どちらにしようか考えること三秒目で錦の方から「駄目だ。予定通りにする」と返って来る。 平坦な声でさらりと返されたので少々心配になったが、目が合うと慌てて反らされた。 あからさまな態度だ。 恥かしそうに目を伏せ、無言で鶏肉を口に運ぶ。 頬と小さな耳まで赤い。正確に意味を把握している様だ。 彼もカウントダウンしてるのかと心の中でガッツポーズをする。 赤面する錦が尊い。

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