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素質は有ったなと遠い眼をした。
何故だ、わざとか。
――わざとな訳はない。
そんなつもりが無い所が錦の恐ろしさだ。
天然の男殺しとか怖い。
彼はそんな子だったか?
過去を思い返し、十歳児の頃から――うっすらとだが――素質は有ったなと遠い眼をした。
スプリングの僅かな音と共に錦が身を起こす。
時刻は五時三十分。まだならぬアラームを止めて錦はベッドから降りる。
「お前はまだ休んでいろ」と言い残し、一切の未練を見せぬ仕草で寝室をあとにした。
「えぇ……」
まだ温もりの残るシーツを撫で、尻くらい揉んでおけば良かったと後悔した。
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