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静まれえええ静まりたまえええええ!
「仏説摩訶般若波羅蜜多心経観自在菩薩行深般若波羅蜜多時照見五蘊皆空」
ベッドで座禅を組み海輝は煩悩を押さえるべく経を唱える。
静まれえええ静まりたまえええええ!
悟りを開く気は欠片も無いが――精神統一し経を読みあげたお陰か――荒ぶる海輝の海輝君は自然と眠りについた。
「封印完了」
やれやれと額の汗をぬぐい下着の中を覗く。静まり返った息子様を見てようやく洗面と着替えを済ませる。
キッチンではやはり錦が炊事をしていた。
海輝の姿を認めて小さく笑う。
世界征服できる程の可憐で美しい笑みだ。
守りたいこの笑顔第一位の可愛いさだ。
「茶を淹れるから座ってろ」
「うん」
茶ぐらい自分で淹れれば良いのだが、甲斐甲斐しく世話を焼かれるのは中々良いものだ。
何時もと違い立場が逆になると、錦の気持ちが一層分かるような気がした。錦もこんな風に考えていたのかな。
そう思うと、とてもくすぐったく、心地良い。
錦が何処と無く楽しそうなのを見ると、やはり海輝も楽しい気分になる。
一言で言えば、幸せなのだ。
朝起きたら、錦が海輝の名前を呼びお早うと照れながら言うのだ。
何だか泣きたくなる。
三角巾に割烹着を身に付けた錦は三度みた。
今日で四度目だ。それなのにやはり新鮮に感じて、ときめく気持ちにも慣れない落ち着かなさがある。
成程、恋とは一度では無く何度も落ちる物らしい。
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