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料理に犠牲はつきもの
「それより若狭さん聞いてくださいよ。家に帰ったら、割烹着と三角巾着けた錦君がいるんですよ! お帰りって迎えてくれて、しかもご飯作ってるんですよ? あの錦君が、割烹着と三角巾着けてクッキングですよぉ!!」
朝起きたら錦がいる。
挨拶をして、食事をともにし行ってらっしゃいと見送られる。
お帰りと迎えられて、一日の終わりに彼にお休みと微笑まれる。
まさに楽園である。
「しかも激旨で、胃袋捕まれた!」
『私が用意したレースのエプロンを使用しないとは遺憾です』
「 コンビニの御握りがまともに作れないあの錦君が! 皿洗いさせれば、必ず何枚か割ったり欠けさせるあの錦君が!! 始めて会った夏に、一緒に料理をしようとして火事を起こしかけたあの錦君が、朝ごはん洋食と和食どちらが良いなんて言い出すんですよ? え? どちらも作れるってことですよねこれ。魚が足を生やして歩けるように進化したようなものなんです。お祝いしないと! ベランダから花火打ち上げなくては!」
『えぇ、彼が台所に立つたびに世紀末状態で……天井は煤で真っ黒になりオーブンが爆発して火を噴きましたねぇ。懐かしい』
「そうですね。芸術は爆発ですから! 相変わらずキッチンは戦場状態でしたけど、構いません! 料理に犠牲はつきもの」
『毎回電化製品を爆発させる度に火災報知器が鳴り響き、競う様に各方面から問い合わせが来る有様。朝比奈上層部の皆様からの電話が鳴りやまず大変な日々でした。終いには、この私が正座説教される羽目に。初めてです。アンビリーバブルですよ』
「はぁ? 錦君で初めてを経験したとか死んでください」
『若造殺しますよ』
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