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錦君解禁時間三十分前だ。
十二月三十一日、時刻は二十二時三十分。
海輝は次第に落ち着きを失くしていく。
錦君解禁時間三十分前だ。
――ついに、錦と……
ぼんやりと、今日一日の出来事を振り返る。
定時で帰る為に凄まじい勢いで仕事を片付けて、十九時ジャストに笑顔で席を立つ。
会う度に飲みに誘ってきた奴らを笑顔と眼力で黙らせ、それでも食い下がる相手には鳩尾に一発お見舞いして帰宅した。
錦の事しか考えられなかった。
他に考えることが有ったとしたら是非教えてほしいぐらいだ。
マンションへ到着し、勢い良くエントランスに飛び込んだ海輝をコンシェルジュが酷く驚いた表情で出迎える。彼らはプロだ。どんな相手でも笑顔を見せる。何時もとは違った海輝の様子にも直ぐに穏やかな笑みを浮かべ、「お帰りなさいませ」と挨拶をして見せた。
内心「コイツ眼がやべぇ」ではあるが、心の内を微塵も感じさせない笑顔はさすがプロで有る。
エレベーターのボタンを連打する姿に引きながらも「何かございましたか?」と微笑む。海輝はカッと目を見開き「妻が!」と言い残して非常階段へ移動した。コンシェルジュは「あの人既婚者だったんだ……」と驚いていたことを海輝は知らない。
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