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さよなら、僕の童貞と錦君の処女よ。 一緒に卒業して、今度は一皮剥けたお互いとこんにちはだ。だ。
海輝はエレベーターを使う時間を惜しみ、非常階段を全力で駆ける。
三段飛ばしで駆け上がる姿はカンガルーもびっくりの脚力だ。
錦が部屋に居ると思うと、毎日玄関の扉を開ける瞬間こう思うのだ。
これほどまでに、扉を開ける瞬間を焦がれたことは有ったかと。
今日もドアを開ける瞬間が幸せだった。
錦がいると幸せの連続である。
ドタドタと廊下を走り勢いよくリビングへ飛び込めば、食事の準備をしていた錦が驚いた顔を見せた。
驚きながらも「お帰り」と言う事は忘れない。
海輝は「ただいま」と返し抱きしめる。
えへへと笑う海輝に錦は小首をかしげる。
弁当の礼を言うと、破顔したのが可愛かった。
一分一秒でも早く帰宅して、錦に会いたいという気持ちも強いが、彼の用意する食事も楽しみだった。
自分は世界で一番幸せな男であり、夫だと心底思う。
前世では世界では無く、銀河をブラックホールから救い出したのだろう。
夕食もやはり美味しかった。
蕎麦と天婦羅の盛り合わせ、茶碗蒸しに五目いなり寿司。
いなり寿司は海輝の好物の一つだ。握り寿司よりも旨いと思う。
サクサクとした天婦羅も言うことなしだ。旨すぎる。
天つゆも、蕎麦のスープも出汁がきいた上品な仕上がりだ。
料理一つ一つの出来映えを褒めて、照れる錦に悶絶して幸せな夕食の時間を終える。二人で仲良く片づけをして、順番に風呂にも入り、水分補給をしながら錦が作った蜜柑のゼリーを食べる。
これもまた絶品だった。
二人で向かい合いながら他愛のない話で笑っていた。
そして、年末の歌番組をソファに並んで見ながら寛いでいるうちに、海輝は喉の渇きを覚える。
――ついに、錦君と最後までしちゃうのか。
さよなら、僕の童貞と錦君の処女よ。
一緒に卒業して、今度は一皮剥けたお互いとこんにちはだ。
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