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脳内渦状態

あと、十分だ。 あと十分で、解禁時間になる。 「錦君、眠い?」 早くベッドに行こうと、解禁時間を急かしているわけでは無い。 「いや、全く」 それを聞いて安心する。 錦は二十二時からどこかぼんやりとした顔をしていた。 会話が時折滑ったりと上の空だ。かなり珍しい。 海輝と目を合わせれば我に返り、そして恥じらいを乗せて視線を外す。 それを何度か繰り返す。 あまりにも可愛くて凝視してしまう。 一応は続いていた会話は、徐々に少なくなり完全に途絶える。 今や完全無言だ。気まずさは無かった。 恐らくいつもの海輝ならもう少し思慮深く錦を思いやっただろう。しかし何分意味不明なテンションであった。連日の寝不足と、怒濤の「錦君可愛い」で脳内花畑状態だ。まともな思考など持ち合わせてはいない。 海輝はとにかくポジティブ思考なので、解禁時間が迫り錦も緊張しているのだと考えていた。 隣に座る錦をちらりと見下ろす。 光の輪を乗せた黒髪から小さな耳朶が見え、そのまま首筋へと視線を落とす。 そして舐める様に更にその下へ。 撓む襟元から華奢な鎖骨を拝み眼を細めた。 大変よろしい。 更に良いのはグレーのスェットを着た錦だ。 寝間着代わりに海輝が用意したスェットの上下は、錦が普段着用しない素材だ。育った環境故か基本的にはボトムスは無駄の無いすっきりとしたシルエットで、トップスは襟や釦があるデザインを好む。 それが今、海輝の衣類を身につけているのだ。 いかにも彼氏の家に居ますというような出で立ちが堪らない。 オーバーサイズのシャツが色っぽい。 長すぎる袖が可愛い。 萌え袖というやつだ。 あの、錦がサイズの合わない服を着ている。 実に萌える。 ゆったりとした衣服の中で泳ぐ体は、海輝が抱き込んでもまだ腕が余る。 涎が出る。完全フル勃起物だ。 脳内渦状態であれやこれやと考えていると、置時計の長針と短針が左に傾く。 ついに――二十三時だ。

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