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あぁ、神よ……。
「錦君」
静かに名前を呼ぶ。
しかし、いかにも待ってました等という露骨な態度は流石の海輝も取ろうとは思わない。海輝も初めてだが、錦を気遣うことくらいはできる。
否、経験の有無を問わず錦を気遣わない等、万死に値する。
「そろそろ寝ちゃう?」
テレビの液晶画面からは、シャンパンオレンジのドレス姿で、over the rainbowを謳う黒人美女のハスキーボイスのみが聞こえる。
返事が無いので、あれっと思うと左肩に艶のある黒髪が触れる。
「に、錦、クンッ」
誘われてるのか?
「錦君ッ!」
抱きしめようと手を持ち上げ、海輝は眼を丸める。
驚いて見下ろしそして唖然とした表情が次には苦笑に変わる。
錦が半分寝かけているではないか。
あぁ、神よ……。
海輝は瞳を閉じ天を仰ぐ。
――僕としたことが失念していた。
そうだ。
錦の就寝時刻は二十二時だった。
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