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「困った子だな」

「眠いんでしょ」 「……平気だ」 必死に起きようとしている錦に嘘を付くなと笑う程非道ではない。 これは、敗北必至の戦いだ。 「寝ようか」 「駄目だ」 「僕も寝るから。錦君、ベッド行くよ」 海輝自身は全く眠くないのだが、錦を寝せる為には一緒にベッドに入る事が一番有効だろう。 そうすれば、彼も罪悪感は感じず穏やかな気持ちで寝れる筈だ。 しかし反抗的な――いや、いつもこの子は生意気だった――目で睨んでくる。 「おい、何で睨むんだい」 「駄目だ。起きる」 「困った子だな」 仕方がない子だ。 頑なに起きようとする理由を考えれば強引にベッドに押し込むことは躊躇う。 錦を抱き込み、背中や頭を撫でる。 むっとした目つきで見上げてきたのに、柔らかさを意識して微笑めば錦の視線が次第に緩む。 丸い後頭部を幾度かなぞれば、ゆっくりと瞬きをしていた眼が完全に閉ざされる。寝ぼけているのかもしれない。胸元に頬擦りしてくるのが可愛い。やがて体から力が抜けていく。 芯を失い重みを増した体がくたりと海輝の腕の中で崩れる。

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