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第9話
「奏斗。おいで」
…………母さん?
「お母さんと一緒にお散歩いこ?」
………うん………いきたい………
伸ばされた手に自分の手を重ねて握る
伝わってくる母の温もりと優しい言葉に必死にしがみつく
力の入らない足で
上手く握れない手で
ふわふわとした意識で
母の隣を歩いた
どれほど経ったか、へとへとになるまで歩いた
もう家から遠く離れた見慣れない街並みに、知らない世界まで来てしまったように思えた
ふと道端に何かが、落ちていた
くまのぬいぐるみ
それは、ボロボロで、他のゴミに混じって捨てられていた
1人ぼっちで
さみしそう
あまりにも可哀想で、助けてあげたくて
母の手を、離した
振り返るが母の姿はどこにもなかった
探せど探せど見つからず
その時しっかり理解した
ああ、僕は
捨てられたのだ、と
手にはぼろぼろのくまのぬいぐるみを抱きしめて
ただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった
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