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第12話
嫌な事を思い出してしまった
どうにも気分が晴れない。
重たい体を引きずって布団からでる
時計の針はもう少しで1時になる
ちょうどお昼時だ
寝過ぎたせいか、頭がガンガンとなり、目眩がした気がした
これではまた眠る事は出来ないだろう
暇つぶしと気晴らしもかねて、奏斗は万年筆とスケッチブックを取り出す
椅子に座り真っ白な空白に出来上がっていくのは美しいウェディングドレスの女性と正装のスーツを着る男性が並んだ絵。
結婚式だ
奏斗は小さい頃からウェディングドレスデザイナーになりたかった
もちろんドレスだけでなく、男性のスーツにもこだわりを持って
結婚式とは人生で最も華やかにすべきだと思う
幸せそうな顔をする優也とそのお相手を、自分がデザインしたドレスと一緒に写真に収めるのが奏斗の夢だった
いつかは優也も結婚するのだろう
優也が自分以外の人と繋がるのは、今の気持ちからしたら心苦しいが、それでも優也には幸せになってほしい
せめてもの報いで、優也が好きになった人を純白なドレスで着飾り、これから創る2人の人生を手伝って優也に恩返しがしたかった
今まで助けられてばかりだったから
だが、そんな事はただの建前で
優也に向けられるこの、どうしようもない気持ちを、自分自身の手で終わらせたいだけなのかもしれない
優也の幸せを見送れるように
俺は人を愛すことはできない
愛してはいけないのだ
自分は父のようになりたくなかった
人を愛すことが、まるで父の存在を肯定してしまうようで怖かった
その考えは一生奏斗の錘となり、消えることはないだろう
無意識に優也の隣りにいる女性の顔を真っ黒に塗りつぶす
このドス黒い感情が、思いが、いつか優也を傷つけてしまうかもしれない
そう、俺は、あんな父と母の間に生まれた、どうしようもないクズだから
だって夢を見てしまうんだ
綺麗なウェディングドレスを着た母の姿を…
母の顔はとても嬉しそうに笑っている
そんな顔、1度も見たことないくせに
きっと今でも考えている
あのとき手を離さなければ
母の言う、いい子になれたなら
もし奏斗を、愛してくれたなら
口先ではどうでもいいようなふりをするくせに、結局はいつまでも母の姿を追いかけ続ける、愚かな、夢。
この気持ちは誰にも明かしてはいけない
自分が死ぬまで背負わなければならない呪いのようなもの
優也には、知られたくない
本当は俺は父と同じだと
父と同じように汚れた感情を持っているのだと
結局、抗うことなどできないのだから
奏斗は未だに母を未練とし
そして、父と同じように
手放すことができずに依存する
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