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第16話

「奏斗。起きなさい」 父に起こされ目が覚めた 自分の部屋の天井では無いことに、気持ちがどんよりする 「もうすぐ晶が帰ってくるよ。さ、朝食を食べよう」 昨日の父はどこへやら。 いつもの優しい父の行動一つ一つに陰があることを、俺だけが知っている 「…とおさん」 「なんだい?」 「晶には、こういう事しないよな」 「どうだろうね。あの子も私の可愛い息子だからね」 あの子"も"ってなんだよ 俺のことは息子だなんて思ってないくせに 父の小さな一言にいちいち傷つく俺もいけないんだろうが、どうしても心に響いてしまう。 自分じゃなくて別の奴がこんな思いをすればいいのに 自分じゃなくて晶が代わりになればいいのに 度々、そんなことを思う だが、今は駄目だ。 晶までもが虐待なんてされたら完全に世間に知られてしまうだろう そんなことになったら俺の人生めちゃくちゃだ 今だってこんなクソみたいな両親に人生狂わされているというのに これ以上騒ぎになりたくない 「そんな事聞いてどうしたんだい?」 「…ただの、嫉妬だよ」 だからまだ父には晶に手を出されては困る せめて俺がここを出て行くまでは。 ベッドから起き上がろうとすると手首に包帯が巻かれている事に気づいた それは昨日の縛った所と、この前強く掴まれあざになった場所に巻かれている 今更何の親心なのか。 こんなもの昔に比べりゃ大した事ない 背中の火傷だって無視してたくせに こんな包帯巻いていたら余計に目立ってしまう 父さんは一体何を考えているのか。 こんな格好では恥ずかしくて外に出られるものではない リビングに向かいながらグルグルと包帯を外す 父はなぜかその様子を見て止めに入ってきて、奏斗はギョッとした 「せっかく巻いたのに。痛いだろう?つけておきなさい」 「…いまさらだよ。こんなもの」 今のは父に対する恨みと憎しみが混じった言葉だった どれもこれもあなたが作ったものだろうに、隠したって意味なんてない 言って後悔した 無意識に冷たく言い放った言葉を不快に思われ、気分悪くさせてしまったらどうしよう また、怒るだろうか じっと反応を待つが、怒りの声も、拳も飛んで来ない 恐る恐る顔色を窺うが、特に怒っている様子ではないので、ひとまず安心した だが、少しだけ、父の表情に違和感を感じた だが、何も言ってこないのだから、きっと大した事ではないのだろう 取った包帯を迷わずゴミ箱に捨てた 少し血が滲んでいたが、何も気にする事はない。ほっとけば治るのだ 今までだってそうしてきたのだから その様子に父は多少のためらいを見せた きっと気のせいだろうが、 その顔は少し悲しげに歪んでいた気がした 父は突っ立ったまま、奏斗の手首を見つめている 何が面白くて、人の傷をじろじろと見るのだろうか 奏斗は気分が悪くなり、父に言った 「父さん。なんか今日、おかしいよ」 「あ…ああ、すまない。朝食を、食べようか」 そう言ってやっとその場から父が動き出す なんだか気味が悪い こんな状況で朝食など食べる気にもならず、少し喉を通し、残りはゴミ箱に捨てた いつもなら父が指摘してくる行動さえも、なぜだか今日はその様子をじっと見ているだけだった

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