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第17話
それから長い沈黙が続いた
こういう時に限って休日なのだ
このまま家にいれるわけもなく、私服に着替えて財布とスマホの準備をする
「どこに行くんだ?」
「…本屋」
そう言って早々にリビングを出て玄関に向かう
さっさとこの空間から逃げ出したい
そう思い重たい扉に体重をかけて開けたが、
「「あ」」
ちょうど帰って来た晶と鉢合わせてしまった
体重を乗せるように扉を開けた奏斗はそのまま晶にぶつかった
運動が苦手な奏斗はそれでバランスが崩れてさらに晶に保たれるようになる
晶はそんな奏斗の肩を支えて体勢を取り直すよう促す
昨日の行為で体中が痛い
ギクシャクと上手く立てない奏斗に呆れたのか、脇下に手を入れ、そのままひょいと持ち上げる
少しつま先がつく程度の高さから垂直に降ろされたので奏斗も体勢を取り直す事が出来た
「ん。どうも。邪魔だからどいて」
自分からぶつかり保たれてきたくせ、晶の助けなしではそのまま転けてしまっていただろうに、お礼もなし。
悪びれる事もない奏斗に晶は怒るだろうと思ったが、何故か今日は何も言って来ない
顔を見ると逆光で表情までよく見ることが出来なかったが、少し耳が赤らんでいるように見えた
風邪にでもなったのだろうか
とは言え晶はしっかり息子として愛されている
異変があれば父が気づくだろう
奏斗は自分が何かするまでもないと括った
「どこ、行くの」
「別に。そこらへん」
質問に答えたというのに一向に晶は退こうとしない
出口が完全に塞がれて、これでは出られない
無理にでも押し退けて外に出ようと手を晶の肩にかけたところで晶が口を開く
「…父さんと仲直りできた?」
その言葉で奏斗はピタリと動きを止める
ああそうか、こいつ
「やっぱ、わざとなんだ。昨日いなかったの」
「だって、どうしてもって父さんが。だって流石に可哀想じゃん。あの日は父さんの誕生日だったのに…」
その言葉を聞いて奏斗は少し驚いたが、同時に納得した
だからあんなに気が立っていたのか
今まで祝わなくたって気にしてなかったし、俺の誕生日も祝われた事もなかったからすっかり忘れていた
それに奏斗は
「ああ、父さん。誕生日だったんだ」
父の誕生日を今、初めて知った
「は?本当、兄さんって親不孝者だよね」
「兄さんって呼ぶな。話終わったんなら早く退けよ」
「ねぇ、どこ行くの」
「だから…っ!」
本当にこいつは面倒臭い
さっきも同じ質問されて律儀に答えてやったっていうのに返答が気に入らないと何度も質問を繰り返してくる
いい加減退いてくれ
昨日のせいで気分は最悪なのに、どうして朝っぱらからしつこく絡んでくるのか
「どうしたんだ?」
「あ、父さん。ただいま」
「…っ!早く退けよっ」
2人で言い争っている事に気づいた父がリビングから出て玄関まで来て奏斗は焦る
また何か突っかかって来る前にさっさとここを出よう
無理矢理晶の肩を押せば何とか隙間から逃げだせた
それから小走りに本屋へ向かう
本当に昨日から災難続きだ
好きな本でも読んで早く気分を晴らしたい
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