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第19話
「おかえり」
「…うん」
あれから特にすることもなく家に帰った
帰ってきたとたん父が出迎える
なんとなく気まずい感じを放っているが、それはなんなのかは奏斗にはわからない
「夕飯は食べるのか?」
「いらない」
ぎこちなく話しかけてくる父にイライラしてきた
もともと気まぐれな父だ
それに振り回される事なんて日常茶飯事であるのに今更気を使われるのもそれはそれで嫌だった
いづらくなり階段を駆け上がって自分の
部屋に入ろうとするが
何か違和感を覚えた
中から誰かの気配を感じる
息を殺して中の様子をうかがえば中から微かに音が聞こえる
父は下にいる
ならば今中にいるのはあいつしかいない
思い切りドアを開け怒鳴った
「おい晶っ。俺の部屋には入るなってあれほど!」
「うわ、びっくりした。おっきい声出さないでよ兄さん」
「いいから早くでてけ」
なんとか部屋から晶を引っ張り出す
誰であろうが自分のテリトリーを乱す奴は許せない
晶が触れた空気全体から澱んでいるように見えた
「そんな慌てて、やましいもんでも隠してんの?兄さん」
「黙れ。クソっ…鍵をかければよかった」
「…兄さん、これなに?」
「っ!返せ!」
急に晶が何かを取り出して奏斗の目の前に突き出す
一瞬、奏斗はそれを見て固まる
晶の手に握られていたのは
昔、母に捨てられたあの公園で拾ったクマのぬいぐるみだった
いつの間に持ち出したのだろう
それは奏斗の部屋に置いてあったものだ
無くさぬよう大切にしまっていたはずなのに
奏斗はぬいぐるみに必死に手を伸ばして奪い返そうとする
だが、晶は意地悪に奏斗の手が届かないところまで、高く腕を上に伸ばす
奏斗より高身長の晶に敵うわけもなく、奏斗の手は宙を掴むばかりだった
「ほんとにっ、返せよ!」
「ははっ、そんな必死になっちゃってさ。よくその歳でこんなん持ってられるよ。本当、趣味悪いね」
そう言って鼻で笑う晶を無視してクマを持つ晶の手に縋り付く
ぷらぷらと揺れるクマのぬいぐるみは指先を掠めるも、あとちょっとのところで離されてしまう
その様子が面白いのか、晶はぬいぐるみを強く握りつぶす
「やめて…返してよ」
「ちゃんと言えよ」
「っ…かえして、ください」
「顔、真っ赤」
意地の悪い笑顔で恥ずかしさに顔が赤くなった奏斗の髪をかき上げる
どうしようもない奏斗はじっと我慢する事しかできない
それをいいことに晶は自分の顔をグッと奏斗の顔に近づけて
……チュっ……
「っ!」
おでこにキスをした
奏斗は一瞬何が起こったのか理解出来なかった
だが、強い不快感を覚えて咄嗟に晶をつき飛ばす
よろけた晶の隙をつき、クマのぬいぐるみのことなど忘れて自分の部屋に駆け込み鍵をかけた
………最悪だ………
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