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第21話
「目、腫れてる」
「…うん」
登校時
今日は優也にどうしても会いたくて、父に隠れて待ち合わせた
優也は会ってすぐ奏斗の異変に気づく
手首に縛りつけた跡
隠しきれてないキスマーク
薄く赤く腫れた目元
おととい学校を休んだ奏斗を優也は心配していたが、やはり予想は的中したようだ
誰が見てもボロボロになった奏斗に、優也は問いただす事もなくただ黙って隣を歩いてくれた
「手、繋ぎたい」
口を開けてそう言ったのは奏斗の方だった
いつもなら無口で甘えることなど多々ないのに奏斗から言ってきたことに優也は驚いたが、特に反応も見せずにそっと、手を繋いだ
もうすぐ成人になる男2人が仲良く手を繋いで歩くなんて周りから見たら奇怪でしかないだろう
それでも、奏斗は優也に触れていたかった
父の急激に変わる態度
異常を繰り返す晶
たった3日間で奏斗をここまで追い詰めた2人
肉体的にも、精神的にもダメージが大きかった
言い知れない不安と恐怖は1人で抱え込むには大きすぎた
少しでも、この苦痛から解放されたい
だから、優也に縋るしかなかった
「かなちゃんの手、冷たい」
「…今日寒いから」
「そっか」
ゆっくり、ゆっくり歩いて学校に向かう
その間も手を繋いだままだったし、学校に着いても離すことはなかった
強くしっかりと、だが優しく温かいその手を感じて、とても離さずにはいられなかった
2人のクラスに近づくにつれ、奏斗の足は重くなる
教室には優也を囲む人達がたくさんいる
そんな中で手なんて繋いでられないし、強制的に離す事になる
でも、離したくはなかった
今離したらきっと優也は遠くに行ってしまう
そう、思ってしまうのだ
気づけばクラス寸前のところで立ち止まり、人が見ているにも関わらず涙が流れていた
溢れ出るそれは、奏斗には止められなかった
見られてる
ジロリとこちらを睨みつける視線から逃げ出したいのに体は動きはしない
俯いて、黙って、泣いた。
手を離したくなくて泣いてしまうなんて、聞いて呆れる
だが、奏斗の心はそれ程までに救いを求めていた
いち早く奏斗の様子に気がついた優也は、繋いだ手を引いてUターンし、通ってきた廊下を突っ切って裏庭に出た
そこには誰もいない
静かで穏やかな空間だ
きっと誰にも邪魔されないところを選んで、連れてきてくれたのだろう
その優しさにまた涙が止まらなく溢れ出てくる
優也は奏斗を向かい合った状態で抱きしめて、優しく囁く
「大丈夫、大丈夫」
頭を撫でながら囁かれるそれは馴染みのあるおまじない
これをされると奏斗は酷く落ち着いた
同時に体の強張りが解けてふらつき、倒れそうになるところを優也に抱き抱えられて小さなベンチに座らせられた
優也は奏斗の前でしゃがみ、下から覗き込み目を合わせられる
優しい綺麗な目
いつの間にか涙は止まっていた
それでも優也は離れる事なく、ずっと手を繋いだまま一緒にいてくれた
「ありがと…」
「どういたしまして」
腫れぼったい目に優也の手が被せられる
泣いたせいか疲れていた奏斗は、その手に抗えず静かに目を閉じて、やがて眠りについた
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