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第26話
「何これ…」
次の日
いつものように学校に登校すると、奏斗の机の周りに人だかりができていた
優也と奏斗が教室に入ってくると、人だかりが一斉に2人へと振り向く
異変に気づいた優也が人だかりを掻き分けて奏斗の机にたどり着くが、その光景を見た瞬間に、人が変わったように優也の態度が豹変した
「誰が、誰がこんな事したんだよ」
優也の態度に全員が狼狽えたが、そんな事は関係ないとでも言うように優也は近くにいた生徒の肩を掴んで唸るように聞いた
あんなに怒っている優也は奏斗も見た事がないほどだ
「誰がやったって聞いてんだよ」
「し、知らねぇよ!俺らが来た時にはもう…」
それを聞いた優也は奏斗の机に乗ってる何かを掻き集めて、カバンに押し込んだ
遠くから見ているだけだった奏斗には何が起こっているのかわからないので、奏斗もそこまで行こうとしたが、優也が急いで戻って来て奏斗を教室から出そうと誘導してきた
「優也、どうしたんだ。皆…俺の机に…」
「いいから、ここを出よう。今日はもう学校休もう、ね?」
「なん、で?待ってって!」
無理やり押されるようにして教室を出て行くが、その間も机に集る人だかりは無くなる事はなく、自分の机の様子は見えなかった
ギラギラと周りの視線が痛かった
それはいつも向けられる軽蔑の眼差しとは、また別の何かがあるように思えた
半ば強引に学校を出たが、優也は止まる事なく今朝歩いて来た道を足早で戻ろうとしている
流石に奏斗も限界だ
腕を引っ張る優也と反対方向に踏ん張って優也が止まってくれるまで対抗し続け、やっと優也が止まってくれた
「もう!なんだよ優也。どうしたんだよ、俺の机に何があったんだよ」
「かなちゃんは何も知らなくていい。大丈夫、僕が何とかするから」
「だからっ…その何とかってなんだよ」
「僕のせいなんだ…僕の…」
訳がわからなかった
今まで奏斗の机に些細なイタズラならされた事は多々あったが、本当に些細な事だけだ
今朝の出来事はそんな小さな事のように見えなかった
「カバンの中、見せてよ」
「っ駄目だって!かなちゃんは何も見なくていいんだ。大丈夫だから」
「いいから早くっ!」
優也から無理矢理カバンを奪い取ろうとすれば優也も対抗してカバンを引っ張る
ついに優也からカバンを奪い取れた奏斗だが、その弾みでカバンが逆さまになり中身が街路にぶちまけられた
優也の私物がゴトゴトと落ちていく中に何枚もの紙が一緒に落ちて来た
驚愕する奏斗はその中の何枚かの紙を手に持った
慌てて拾い集める優也の手元からもその紙が見える
それは、奏斗の盗撮写真だった
何十枚にも及ぶ写真は奏斗の写っているなんて事のない写真から、中にはトイレ中の写真や後ろから撮ったのか、うなじにある父がつけたキスマークがはっきり見える写真もちらほら見えた
特に目立ったのが、この前自分で作ったウェディングドレスを着ている奏斗の写真が何枚も盗撮されていた
そんな事、ある訳ないと思ったが、確かにそれは奏斗のドレス姿だった
一度自分でドレスを作ってみたいと思い、学校のミシンを借りて作って着たりしていたが、その時被服室にはもちろん1人だったし、しっかり鍵もかけていた
どこから、いつ撮ったのか
それすらもわからない恐怖から、背中に寒気を感じた
「なんだよ…なんなんだよこれ」
「かなちゃん!見ちゃ駄目だ」
すぐさま優也が奏斗の持っていた写真を奪い取る
チラチラと通行人の視線の中、唖然と立ち尽くすだけの奏斗の手を引いて優也は、行こう、とどこに行くかもわからないのに引かれるがまま優也について行く
なんだ、なんなんだ
写真を見て自分の机で何があったのかはだいたい察しがついた
全員に見られた
もちろん優也にも
男がドレスを作る事でさえおかしな事なのに、さらに試着している姿まで見られてしまった
羞恥心と恐怖心が入り混じって、奏斗の頭はパニック状態だった
こんな事をする奴なんて晶しかいない
昨日の会話を思い出し、その意味を今更になってやっと理解した
「かなちゃん、大丈夫?」
いつの間にか小さな公園に来ていた
真ん中には噴水があり緑が生い茂る、落ち着いた雰囲気の公園だった
優也は心配そうに奏斗の顔を覗き込み、近くのベンチへと座らせた
「おれ、これからどうすれば…」
「…大丈夫、きっと大丈夫だから」
「大丈夫?そんな訳ないだろ。みんな見た、みんなだ!あのキモい写真を全員が見たんだ………大丈夫な訳ない………」
「…奏斗」
昨日と今日で意味のわからない事ばかり続いて奏斗の頭はパンク寸前だった
今すぐにでも逃げ出してしまいたかった
どうして俺ばかりこんな目に遭わなきゃ行けないのだろうか
「もうやだよ…」
「…っ!奏斗、僕は絶対に奏斗の事見捨てたりしないから!だから…」
「嘘つくなよ!本当は内心軽蔑してるんだろ」
「そんなはずないよ。僕は絶対に、奏斗を裏切ったりしない。絶対にだ」
「…ほんとに?」
「ほんとうに。大丈夫、僕がいる」
そう言って優也は優しく奏斗を抱きしめる
混乱している奏斗を慰めるように頭を撫でてから、今日はもう帰ろう、と立ち上がって奏斗の手を繋いで歩き始めた
「ゆう、さっきは、ごめん」
「僕はいいよ。気にしないで」
しばらく歩いてから頭が冷えた奏斗は、優也に八つ当たりしてしまったことを詫びた
自分でもどうかしてたのだろう
でもいろんな感情が渦巻いてそれどころじゃなかったのだ
これから学校にはどんな顔して行けばいいのか
今朝の鋭い視線を毎日浴びなければならないと思うと、とても耐えられそうにない
これからどうすればいいのか
奏斗にはそんな不安が募るばかりだった
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