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第28話
「はあ?お前誰だ……ぐあっ!」
「何してんだって聞いてんだよ」
晶は殴りこもうとした男子生徒の1人の胸ぐらを容赦なく掴み、唸るような低い声でそう言った
その声は今まで聞いた事ないほど冷めきっていて、奏斗に向けられた言葉ではないのに、聞いてるだけで鳥肌が立つほどだった
その光景を見ていた2人の男子も晶に向かったが、奏斗が目を瞑り、開けた瞬間には既に3人とも地面に倒れていた
見ると晶の拳は真っ赤に染まり、3人の顔も見るに耐えないほど腫れていた
あまりの驚愕な光景を目にし、奏斗は呆気に取られて、息を切らす晶を見ることしか出来なかった
「はあ、はあ…にいさん、だいじょ……!?」
「あっ…だめ、見るなっ!」
「兄さん…その傷…」
晶が奏斗の方に振り向いたところで奏斗はハッとし、すぐに傷だらけの体を隠したが、既に遅かったようだ
晶は目を丸くし、驚いていたが、それでも奏斗に近づいて来て、奏斗は焦るように立ち上がった
「待ってよ、兄さん。その傷どうしたんだよ」
「うるさい、来るな!」
「こいつらに、やられたの?」
「こいつら?はっ、白々しいな。こうなったのは全部お前のせいだろ」
「は?意味わかんないし。ちょっと、待ってよ!」
いちいち迫真な演技をする晶に奏斗は怒鳴った
元はと言えば晶が奏斗の写真をばら撒いたのがきっかけだと言うのに今更助けにくる振りをするなど、そんな事をしてまで奏斗を陥れたいのか
「お前が写真さえばら撒かなければ…っ!」
「写真?ちょっと待ってよ、俺は本当に何も…」
「じゃあ誰がやったって言うんだ。お前しかいないじゃないか」
「別に何も…それより他に怪我はしてないかちゃんと見ないと」
「やめろ、触るなって!」
奏斗は早くこの場から逃げ出したくて、晶の後ろにある出口に行こうとしたら、晶に腕を掴まれ止められた
晶は傷がないか気になるようで、奏斗を引き戻すが、もちろん奏斗は抵抗した
どうにも晶は気になるようだが、奏斗は体を極力見られたくない
無理矢理にでも腕を払おうとした時、晶の時と同じように入口から声がして振り返った
そこにいたのは先程奏斗が助けを求めた優也だった
「奏斗!大丈夫?」
「優也…っ!」
待ち侘びた人物に縋りたいが、奏斗の手を晶は離さない
無言で優也を睨むばかりで何も言わない。
その雰囲気は奏斗ですら鳥肌が立つほどゾッとするものだった
「晶、離して」
「………。」
奏斗が言うと先程とは打って変わってあっさり手を離した
だが、未だにその雰囲気は不気味な覇気を飛ばしていた
「奏斗!よかった…。怪我はない?」
「うん、大丈夫…」
すかさず互いにギュッと抱きしめ合う
優也の大きな体に包まれる奏斗は肩は少し震えていた
「そっか。それより、さっきの話は本当?」
「…え?」
「晶君が、いじめの元凶だってこと」
「だから、俺なんもやってないし」
「シラきったって無駄だよ。いくらかなちゃんの弟君だとしても許さないから」
2人の会話を唖然と奏斗は見ていた
あまり他人と喋る事のない晶が奏斗以外にハッキリとものを言うことにも驚いたが、あんなに強気な優也は見たことがなかった
いつも女子の誘いもはっきり断れないのに今目の前にはまるで別人のように強い目つきの優也がいた
奏斗は2人の代わりように混乱していたが、その間にも2人の間にはバチバチと火花がチラついていた
「だいたい、あとから来たくせになんでそんな偉そうなんだよ。あんたじゃなくて、俺が兄さんを助けたんだけど」
「順番は関係ないし、君のせいでかなちゃんが怯えてるんだけど」
「………にいさ、」
「…ひっ!」
優也の言葉にハッとしたのか晶は奏斗に手を伸ばした
奏斗は晶の顔なんて見れず、ただただ真っ赤に染まった手だけが目に写る
咄嗟に身を固めて優也に縋ると、優也も強く抱きしめてくれる
「ああ、大丈夫だよかなちゃん。もう帰ろう」
そう言って優也は奏斗の腕を引く
トイレから出る前に一度晶の方を振り返った
さっきまで優也に強く当たっていた晶の姿はなく、何もせず、じっとこちらを睨んでいた
その姿に奏斗はゾッとし、優也と共に急いでその場を離れた
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