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第32話
「どこに行ってたんだ」
「別に…」
家に帰るとそこには父がいた
後ろには晶もいて玄関で2人して奏斗を待ち構えるように立っていた
そこからはいつものように父の尋問が始まってからすでに10分は立つだろうか
その間奏斗は玄関に立ったまま一歩も動けず、一方的な父の質問にぶっきらぼうに答えるだけ
そんな奏斗の態度が気に入らないのか、それとも真新しい服や靴がそんなに気になるのか知らないが、父は一向に退こうとはしなかった
晶の「無事に帰ってきたのだから、これくらいに…」の言葉がなければあと30分はこのままだっただろう
晶が目前にいる以上、下手なことはできないと考えたのか、父は不服そうにしながらもその場を去っていった
何がそんなに不満なんだ
奏斗はもう高校3年の男だ。女ならまだしも夜ふらっと外にでてぶらぶらすることくらい、別に珍しいことでもないだろう
晶が父にどこまで事情を話したか知らないが、はたから見たら随分過保護な父親だ
まあ、そうなる原因を作ったのも父自身であるのだろうが、
きっとあの男は奏斗が自分の手の届かないところに行くのが怖いのだろう
奏斗が自分の支配下から逃げれば、今度は自分の立場が悪くなる
それが恐ろしいのだ
確かに奏斗が誰かに今の状況を周りに話すことができないのは事実だが、それは父も一緒のことだ
だからこれは奏斗の小さな反抗だった
ざまあみろ
自分で自分の首を絞めている父を見て奏斗は少しスカッとした
ようやく父から解放された奏斗は自分の部屋に入ろうとしたが、次は晶が奏斗の前に立ち塞がった
「どこいってたの?心配したんだよ」
「どけよ」
晶は部屋の前に立ち塞がると白々しくそう言った
そんな晶を奏斗はぐいと肘で押してどかそうとはするが予想通りびくともしなかった
めんどうだな
「本当に心配したんだ、さっきは、その…様子がおかしかったから」
「だったらなんだ、お前には関係ないだろ。少し具合が悪かっただけだ。お前が気にすることじゃない」
「それだけには見えなかったけど。本当に何があったんだ?さっきもそうだけど、学校でのことも…」
晶は意地でもどかず、奏斗を部屋に入れる気はないようだ
それどころか、奏斗の肩をぐっと掴んでまるで逃がさないというようにがっちりホールドされてしまった
だが奏斗も負けじと晶を睨んで言う
「あいつに話たか?さっきのことと、学校のこと」
「義父さんに?まだ話してないけど」
「なら、いい」
奏斗は急に晶の胸ぐらをぐいっと掴むと、睨みながら言った
「あいつには何も話すな。絶対に。元はお前のせいだから言えるわけないだろうけど」
そうだ。学校のいじめはきっと晶の仕業に決まってる
奏斗のことが嫌いで、憎くて、写真もこいつが盗撮したものを奏斗の机に仕組んだに違いない
だから全部こいつのせいだ
「俺のせいって…、なあ、何か勘違いしてないか?やっぱりちゃんと話し合おう」
晶はまるで本当に動揺するような態度をとり、胸ぐらを掴む奏斗の腕を軽く払いのけて、また肩を掴み直した
「お前と話すことなんて何もないだろ。いいから離せよ」
「いや、兄さんは勘違いしてるんだ。だって俺は…」
「いいから離せって」
先程より強く肩を掴まれ奏斗は離れようと暴れた
大きな音を出すとまた父が来て面倒なことになるため、奏斗は声を出す代わりに晶の腕や胸をドンドンと叩いた
多少は効いてたのか、一瞬晶の顔が歪んで力が緩んだ
その隙を狙って奏斗は晶を押し退け、部屋に逃げ込み、扉を閉めようとした
が、寸前で晶がドアの隙間に足を入れてきたので叶わなかった
「くそっ」
「っんとに、頑固だなっ、開けろってば」
それでも奏斗は無理にでもドアを閉めようとするが、晶もこじ開けようとする
しばらくドアの引っ張り合いになると思ったが、晶が放った一言でそれはピタリと止まった
「義父さんにバラされたくないんだったらドアを開けろ」
「っ!」
そう言われた瞬間、奏斗は凍りつくように固まった
奏斗の手から力はすっと抜けていき、あっさりとドアを開けられた
大丈夫だ、こいつは言えない。言えるわけがない
わかってはいるが怖かった
「あーもう、最初からこうすればよかった」
ドアを開けた晶は遠慮なく部屋へ入って来て、固まる奏斗を見下ろした
奏斗はというと、先程胸ぐらを掴んでいたような威勢はなく、ただただ晶を睨むことしかできない
そんな奏斗の姿を見て気分が良くなったのか、晶は続けて言った
「バレたくないんでしょ?義父さんに。いじめのことも、あんたが病んでるってことも」
「俺は病んでない!」
「違うね。兄さんは病んでるさ」
「だったらなんだ、あいつにチクるつもりか?」
「いや?言わないでおいてあげるよ」
まるで部屋に入り慣れているような足取りで、晶は奏斗を追い詰めていくように近づいてくる
それに合わせて奏斗も後ずさるが、狭い部屋には逃げ場などあるわけがなく、すぐに壁に追い詰められてしまう
「隠しておいてあげるからさ、言ってよ。なんでもするって」
「…いやだ」
「どうして?バレたくないんでしょ?」
「お前なんかに…!」
「あ〜あ。兄さんがイジメで病んでるなんて知ったら義父さん驚くだろうな。過保護な人だから、きっと家から出してもらえなくなるだろうね?そしたらあの榊 優也とかいう奴にも会えなくなっちゃうね?」
ぎりりと歯を噛み締める
晶の言う通り、異常なまでに奏斗に執着するあいつならやりかねない
晶はそれをわかって言っている
そうか、最初からこれが狙いだったのか
いじめのことも、奏斗の弱みを作り、自分に従わせるためにやったことだったのか
外に出られなくなるのも、優也に会えなくなるのも嫌だ
でも、だからってこんなやつに…!
「ほら、兄さん
なんでもするって言って?」
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