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第34話
学校に着いても晶は奏斗から離れることはなく、わざわざ奏斗の教室まで着いてきた
普段なら奏斗は晶を突っぱねでもしているだろうが、何せ今日は優也は隣にいないのだ
突き刺さる視線の中、1人でこの廊下を歩くのは自信がなかった
そのため奏斗は渋々と言った感じで、晶が奏斗の教室までついてきても何も言わなかった
教室についてドアを開けた瞬間、中にいた生徒全員が奏斗の方を見る。
奏斗はドアの前で固まって動けなくなった。だが、後ろから「兄さん」と言う声に振り向いた
「兄さん、大丈夫?」
そっと晶が屈んで奏斗の顔を覗く
奏斗を心配する晶に、複雑な気持ちも相まって奏斗は何も言えなかった
「おはようかなちゃん」
すると今度は教室の中から見知った声がした
優也だ
教室にいたのに気づかなかった
「ゆう、や」
安心感でほっとした顔をするが、優也の顔は険しいものだった
目線の先は奏斗の後ろにいる晶に向けられていた
「ここは3年のクラスだ。1年は上の階のハズだけど」
「チッ、はぁ…じゃあ兄さん。放課後迎えに来るから」
優也はいつもより低い声で威嚇するように晶にそう言った
対する晶は舌打ちをして教室を後にした
トイレの騒動もあったからだろうか
いまだに2人の間には火花が散っているように見えた
「あいつと来るから、俺に会えないって連絡したの?」
「…うん。これからは晶と来るから、もう俺のこと待たなくていい」
「どうして、だって、あいつは奏斗のこと苦しめてるのに」
優也は心配そうに奏斗の顔を覗く
綺麗な瞳にまっすぐ見つめられて奏斗は黙り込む
どうして、なんて、言ったってどうしようもないじゃないか
弱みを握られた
そんな惨めなこと、優也には言いたくなかった
「そっか、言えないならいいよ」
黙り込む奏斗に、優也は優しく言った
「辛くなったら言ってよ?」
「…わかった」
もはや口癖のようなそれは奏斗を安心させる
まだ1人じゃないんだって
優也は奏斗の味方だって
そう言ってもらえてるような気がした
チャイムが鳴り、その音で目が覚める
最後の記憶は授業中だったのだが、いつのまにか寝ていてしまったようだ
周りの人達が帰る身支度をする中、また晶と帰らなきゃいけないと思うと憂鬱で仕方ない奏斗は、ぼーっと外の景色を眺めていた
「何見てるの?」
「野球部、あつそ」
「ほんとだ」
いつの間に隣りに来ていた優也とたわいない会話をする
本格的に暑くなりゆく時期なのに、野球部は汗をかきながらも練習に励んでいた
そんな風に時間を潰していればいつしか教室は2人だけになっていた
帰らないの
そうは思いはしたが、口にしたら本当に帰ってしまいそうで怖くて言えなかった
この時間が長く続けばいいのに
だが奏斗の思いも虚しく、時間はあっという間に過ぎていった
「にいさん」
振り向くと教室の入り口に晶が立っていた
乱れた制服を仰いで暑そうにしながら壁にもたれかかる晶
まるで早く来い、と急かしてるようにみえて、はぁ、とため息をもらしながら立ち上がる
のそのそと晶の元へ歩くが、それよりも先に優也が晶の目の前へと迫った
そして、あろうことか優也は晶の胸ぐらを掴み上げた
初めてみる優也の行動に奏斗は驚きを隠せず、その場に立ちすくんだ
「どういうつもり?」
「何が」
「かなちゃんをもてあそんで、たのしい?」
優也は低い声で噛み付くように晶に問いただした
晶はというと、優也に胸ぐらを掴まれているというのに全く動じず、むしろ鼻で笑うように言い返す
「あんたこそ、兄さんにつきまとうのやめたら?いちいちお節介なんだよ」
「それ君が言うんだ?わざわざあんな写真まだばら撒いといてよく言うよ」
「またそれかよ…俺は知らねぇって言ってんじゃん」
言い争いは続く
これはマズイと判断した奏斗は、今まで眺めていることしかできなかったが、意を決して2人の間に割って入った
「もういいって、帰るぞ晶。ゆうも、手を離して」
奏斗がそう言えば2人は不服そうにしながらも、大人しく従う
よかった
奏斗が止めなければ殴り合いになっていたかもしれない
先日、相手が血だらけになるほどボコボコに殴っていた晶を思い出して冷や汗をかくが、奏斗が行こうと言えば何も言わずについてくる
「ねぇ待ってよかなちゃん、やっぱりダメだよ」
「兄弟で帰ることの何がダメなんだよ」
「ほんとに兄弟だと思ってんの?」
「ハッ、どういう意味だよ」
「もういいって、やめろよ2人共」
再び言い争う2人をなんとか止めて歩き出すが、その間も2人の間には異様な雰囲気を醸し出していた
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