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第36話

「起きて、兄さん。学校」 「……ん……」 数回ドアをノックする音で目が覚める 寝ぼけながらも布団から這いずり出て、もそもそと支度をする あらから数日。 奏斗は晶が怒っていると予想していたが、次の日の朝も晶は奏斗を起こしてきた 結局晶は毎日奏斗を無理矢理一緒に登下校させる 変わったことといえば、奏斗も晶もお互い喋ることはせず、ただただ気まずい空気が流れていた 学校についても特に話すこともなく、晶の方から一方的に 「ここで待ってるから」 と勝手に帰るなよ、の意味合いで一言。それだけだった 一方学校はと言うと、トイレの事件以降、表立ってイジメが起きることはなくなったが、そのかわり陰湿な嫌がらせが増えた 最近は私物がよくなくなる それはペンといった小さいものから、ジャージや上履きなど幅広かった ジャージや上履きは予備があったため買う必要はなかったが、盗まれないように毎回持ち帰らなくてはならなかった そのため登下校はいつも荷物が多く、半ば晶に取り上げられる形で運ぶのが日常と化していた 何か企んでいるんじゃないかと警戒していたが、それも最初のうちだけで最近はもう慣れてしまっていた これと言って何か起こるわけでもないし、授業以外はずっと2人でいるので、明るみに絡んでくる奴らも減ったから奏斗にとってはむしろありがたいことだった 相手が晶じゃなければ、こんな複雑な気持ちにはならないのだが もちろん優也は毎日晶と登下校することをあまりよく思っていないようで、毎回2人が口論するのにも見慣れてしまった 「かなちゃん、いつまであいつと一緒にいるの?俺心配だよ」 「別に何かされるわけでもないし…晶がイジメの主犯かどうかわからないし」 「そうやって油断させるのが目的かもよ?」 「…そうなんだけどさ…」 優也は納得しないようだが、最近は晶は本当に何もしてないんじゃないかと奏斗は思い始めていた ここ1週間、晶といるだけでとても快適になったし、まるで奏斗を守るようなそぶりを見せていた それに誰がやったか考え始めると、普段から周りに酷い態度をとっているため思い当たる節は無限にあった 一概に晶が犯人だというのは難しいと今更ながらに気づいたのだ 「あいつは信用しちゃダメだよ。絶対にね」 優也は念を押し言うと、奏斗の肩に頭を乗せるようにもたれかかる 「…ゆう?」 いつもはこんな風に奏斗に甘えるような素ぶりは見せないため、少し困惑したが、それでも振り払おうとはしなかった なんだか、怒ってる? 拗ねてるのか? 奏斗は心の中でそう思ったが、口にはださなかった いまだ奏斗の肩にもたれかかったままの優也の髪が、首元を撫でて、くすぐったさにぴくりと体が揺れた しばらく2人の間には沈黙が続いき、 距離の近さに自身の心臓が高鳴っていくのが、やけに鮮明に聞こえた それほど静かだと言うのに、それでも気まずいと思わないのは、屋上を通り抜ける心地よい風があったからか、あるいは、相手が優也だったからだろうか どちらにせよ、奏斗の気分は悪くはなかった

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