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第41話

「俺のこと好きだよね?かなちゃん」 「…す、き…」 「じゃあ俺の言うことちゃんと聞ける?」 「…うん」 ベッドで2人横たわる中 不意に優也がそんな事を言ったので、奏斗はぼんやり返事する 「今からお引越しするんだ、俺ら2人だけのお城にね」 「………」 「だけど外に出ても、誰かに会っても、一言も喋っちゃダメだよ。いい?」 「…うん」 「ん、いい子」 優也は奏斗のおでこにちゅっと触れるだけのキスをすると、奏斗をベッドから抱き上げる 上手く動かない奏斗の四肢はダラリと脱力していた 優也はそんな奏斗をまるで、宝石のように優しく、そして愛おしそうに抱きしめた ドアノブに手がかかる いつも内側から鍵がかけられていて出られないが、今日は優也が一緒だ 久しぶりの部屋の外だと言うのに奏斗の目は虚ろに、ただ優也を見つめたままだった 「…おにぃちゃっ」 部屋の外に出て玄関に向かう途中、誰かが優也を呼び止めた 優也はため息をつきながら立ち止まり振り返った 「っ!…かなと、おにいちゃん…」 「……?」 今までぼーっとしてた奏斗は、自分の名を呼ばれて声のした方を見た そこには女の子が立っていた その子のことを知ってるような知らないような、うまく思い出せない だがその子は奏斗を真っ直ぐ見つめていて、その表情は悲しげに歪んでいた どうしてそんな顔をする? 元気出して 奏斗はそんな言葉をかけてやりたかったが、優也に喋ってはいけないと言われていたため、開きかけていた口を閉した 「美月、邪魔しないでくれる?急いでるんだ」 「…本当に、やるつもり?」 「はぁ…いいか美月。これで奏斗は救わられる、俺らが助けられる。でも……お前も共犯だ。誰かに言ったりしたら…わかるでしょ?」 「………」 「もう行くから」 そんなやりとりをした後、優也は冷たく言い放ち再び玄関へと向かう 女の子は黙って俯いてしまい、服の袖をギュッと握っていた ドアを開けて外に出ると、夜だった 冷たい空気が奏斗の体を撫でて気持ちがいい 懐かしい感覚だ 外には車が止まっており、優也は足早に車の助手席に奏斗を抱いたまま乗り込んだ 「安全運転で、でも急いで」 「無茶言うなガキ」 「…っ!?」 運転席の方には知らない男が乗っていた 年は20代後半と言ったところだろうか 助手席に乗ったんだから運転席がすぐ隣にあるのは当たり前だが、いきなり優也以外の男の存在が近くにあると知り、奏斗は急に怖くなる なるべく男から離れるように小さく丸まって優也に縋り付く 震え始めた奏斗を優也はよしよしと撫でてくれた そんな半パニック状態の奏斗を男はチラリと見て、まるで同情するかのような顔つきになる 「…ずいぶん薬を使ったみてぇだな」 「あまり喋らないでくれます?かなちゃん怖がってるんで」 「へいへい、っと」 そんな優也に呆れたような眼差しを向けた後、男は車を発進させた 男、エンジン音、揺れる車体 今までの生活で全く気にしてなかったものが、全て恐ろしく思える 「大丈夫、大丈夫」 「…」 優也は奏斗の手を取ると、手のひらの上をくるくると指で丸を描く いつもやってくれた昔からのおまじないだ 怖い時、悲しい時、これをすると何故か奏斗は落ち着いた だから今も、そのおかげで気分も幾分かマシになり、落ち着きも取り戻していった そして気になったのが、この車はいったいどこに向かっているのか 窓の外はまだ何となく知っている道なりだったが、優也に目を手で塞がれそれ以降は見れなかった 「時間かかるから、寝てていいよ」 「…ん…」 そう言われれば奏斗はそうするしかなくなった 塞いだ手は暖かく、眠くなるにはちょうど良い しだいに優也の言った通り眠気が奏斗を襲い、それに争うこともなく、奏斗は意識を暗闇に手放した

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