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第42話
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「おい、もう少しでつくぞ」
「ああ、はい」
何時間か運転した後、男が優也にそう言った
それを聞いた優也は安堵からか、少々強張った体から力を抜いた
腕の中にはすぅすぅと小さな寝息を立てる奏斗の姿
「もう少しだからね」
そう呟くと前を向く
あと数分で目的地につく
そうすれば全てがうまく片付く
そう思っていたのに
「…ちょっと待て」
「どうしました?」
「おいおい、サツに先回りされてるぞ。お前、まさか俺を嵌めたのか?」
「そんなわけないでしょ。…でもどうして、バレるには早すぎる」
「今はそんなことどうでもいいだろ!?
とにかく、さっさとズラかるぞ」
目的地の直前の通路は複数人の警察とパトカーによって塞がれていた
いち早く警察の気配を察知した男は車をUターンしてその場を離れようとする
警察は何か話し合っていてまだこちらの存在に気づいていない
今なら逃げれる
そう思ったのに
「いました!!あの車で間違いないです!」
「くそっ!なんでバレたんだ!?」
聞き覚えのある女の声が、優也達の車を指差して叫んだ
優也は後ろを振り向き、女の顔を確認する
…美月っ!あの女!!
そこには先ほどまで家にいたはずの妹が、警察の中に混じっていた
警察が車を認識した途端、男はアクセルを踏み込んでその場を猛スピードで逃げる
その後をパトカーがけたたましい音を鳴らしながら追ってくる
男の怒号と、エンジン音、サイレンの音に驚き、腕の中の奏斗が飛び起きる
「そこの黒い車!!泊まりなさい!!」
「…っ!?…ゆうや?」
「大丈夫だよ。大丈夫。俺にしっかり捕まってて」
不安そうに見上げる奏斗を抱きしめる
大丈夫、とは言ったものの、内心優也も焦っていた
美月が裏切るのは誤算だった
だが大丈夫だ
まだパトカーとの距離はある。このまま走ればいずれ巻けるはず。
だがそんなことを思っていたのも束の間
かなりのスピードで走っていたはずの車の横から、眩い光が指した
それは運転席側の脇の道から飛び出してきた車だった
警察車両ではない。ただの一般車。
眩しさに、目を掠める暇もない
ぶつかる
そう思った優也は咄嗟に奏斗を守るように抱きしめた
ガシャンッガッ——バキバキバキッッ
車体同士がぶつかる鈍い音が響く
もちろん車は避けることなどできず、ほとんど正面衝突の形だった
優也達が乗っていた車は、横から飛び出てきた車に押され、右へ左へ大きく揺れた
その際、優也は頭や体を強く打ってしまったようで、身体中から強烈な痛みが襲った
だが、今は痛みに付き合っている暇はない
奏斗は、
奏斗は無事なのだろうか
霞む視界だが、腕の中に目をやると、優也同様、どこかに強くぶつけたのか、奏斗の額からも血が滲んでいた
だが、奏斗は優也と違って軽傷のようだった
未だ状況が掴めていないのか、キョロキョロと辺りを見渡し、不安そうな顔をしていた
優也はその姿をみて安堵する
よかった…生きてる
「…ゆうや?」
「にげ、ないと…はやく…」
痛む体に鞭打って、奏斗を連れドアから這いずるように出るが、どうやら足を負傷してるらしく上手く立てない
奏斗も同様、足がおぼつかないようでフラフラとしながらも、歩けない優也に肩をかそうと必死に踏ん張っていた
仕方なく壁を伝ってその場を一歩一歩ゆっくり離れる
かなり強くぶつかったのだ
エンジンが爆発してしまえば、生き残った2人もろとも木っ端微塵だ
それだけは避けなければ
だがやはり限界だった
数歩歩いたあたりでキーンという耳鳴りと共に目の前が暗くなり、力が抜け、崩れるように前のめりに倒れてしまった
起き上がらなくては
そう思うがやはり体は動かない
「…ゆうや?…ゆうや!」
「………」
近くで名を呼ぶ奏斗の声も、酷く遠くで聞こえるような気がする
ボヤける視界だが、不安そうな奏斗の顔ははっきり見えた
「…か…な………」
俺が…俺が守ってあげなきゃ
そんな思いに反して、優也は重くなり閉じていく瞼を、再び開けることはできなかった
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