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第43話

———————優也視点——————— 俺が奏斗と出会ったのは小学4年の頃 転校してきた彼は夏真っ只中だと言うのに、いつも長袖長ズボンと中にインナーを着ていた 最初は転校生の奏斗に皆興味津々で話しかけたりしていたが、子供はそういうことに敏感だ 奏斗の醸し出す雰囲気のせいで直ぐに皆奏斗と距離を置くようになった イジメとまではいかないが、奏斗はいつも孤立していて、誰とも喋らず教室の隅で本を読んでいるような子だった 俺もそんな奏斗の存在を知っていたが、とくに関わろうとはしなかった そんなある日、俺は初めて奏斗に声をかけられた その日は午後に水泳の授業が入っており、どうしても行きたくなかった俺は、水着を忘れたと嘘を言って授業をサボった 教室に行くとそこには本を読んで暇を潰す奏斗がいた 奏斗は服を脱ぐのが嫌いらしく、体育も水泳も全て休んでいた せっかく教室に1人だけだと思っていたが、奏斗の存在にがっかりしながらも、自身の机に突っ伏した ペラッペラッと本をめくる音だけが教室に響き渡る中、うつらうつらし始めた俺はいつの間にか寝てしまったらしい とんっ、と肩を叩かれた感覚がして目が覚める なんなんだと顔を上げると、そこには奏斗の顔があった その時俺は奏斗の顔を初めてみたのだ いつも俯き、長い前髪で見えない瞳は、色素が薄いのもあってか、太陽に照らされて黄金色に輝いていた 俺は吸い込まれてしまいそうなほど、深く見入ってしまった そんな俺を奏斗は寝ぼけているのと取ったのだろう 何事もないように言った 「先生、そろそろ見回りにくるよ。寝てたら怒られる」 「…ああ、ありがと…」 子供特有の声に混じり、耳によく通る可愛らしい声で喋る奏斗に、一瞬返事を忘れてしまった そう言えば水泳の授業をサボっているのだった 体育教師はうるさい奴ばかりなので、正直起こしてくれてよかった だが俺はそんなことよりも、奏斗の瞳、声、顔に強く惹かれてしまったのだ 何が気に入ったのかわからない だが、自分にはない特別な何かが奏斗にあったのは確かだった それからはちょくちょくと奏斗に話しかけるようになった 最初のうちは、友達のいない可哀想なやつに喋りかけてやっている自分の自己満足のつもりだった 奏斗の方も、急に話しかけてくるのだから怪しんだに違いない だがしばらく話しているうちに互いに心を開くようになっていった 彼の虐待の事や家庭環境も、その時教えてもらった 同じ中学に上がると、俺と奏斗には色々な差が生まれた 身長、運動、成績、友人、そして 「好きです。付き合って下さい!」 と、年々顔がよくなる俺に、女生徒からよく告白されるようになった 別に悪い気はしない、ただ、 この子この前かなちゃんの悪口言ってたしなぁ 顔も微妙だし、髪だってかなちゃんの方がサラサラだ と、自分の中で無意識に奏斗と比べてしまい、結局いつも断っていた 奏斗はと言うと、家庭の事情というやつと、彼自身の疑心暗鬼な性格のため全くモテず、恋人ができることはなかった だが問題が一つ 奏斗にも友人ができたというところだ 中学に上がれば他校のやつも増えるし、人数も多くなるため、気が合う友人の1人や2人できてもおかしくないだろう 親友として、喜んであげるべきなのだが、何故か俺はそれが気に食わなかった 今までずっと俺以外と喋ってなかったくせに、俺しかいらないはずなのに 俺以外の誰かと話している奏斗を見ると、まるでお気に入りのおもちゃを取られた子供の様に、焦燥感と怒りを覚えたのだ どうしてもそれが許せなかった俺は、校内に意図的に奏斗の悪い噂を流すようになった 頭の悪いそいつらは、俺の言葉を簡単に信じ込み、噂が広がると、小学校の頃のように、奏斗は再び孤立していった 俺はそれに酷く優越感を抱いてしまったのだ 中学も卒業し、高校に入るとまた新たな問題が発生した 晶だ あいつは奏斗と同じ家に住み、事あるごとに俺の邪魔をしてくる 奏斗もうざがっていると言うのに、だ そして晶が奏斗を好いていることも、すぐに感じ取れた だがしばらくすると、奏斗は時々俺より晶を優先することがあった 俺の方がいいのに、奏斗に嫌な思いはさせないのに きっと、何か弱みを握られているに違いない 奏斗が父親から性的虐待を受けていることは元から知っていた 奏斗はそれにとても苦しめられているというのに、さらに晶にも酷い目に合わされたら… 俺が救ってあげないと そう思うまで時間はかからなかった

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