45 / 67

第44話

優也はまず奏斗がイジメられるよう周りに様々な噂を流した 奏斗の机に写真をばら撒いたのも、トイレで輪姦を仄めかしたのも優也の仕業だった ここまでは簡単だった ついでに奏斗に晶の仕業だと擦り込みたかったが、そこまでは叶わなかったようだ それどころか晶は事あるごとに優也の邪魔をしてくる 毎日のように奏斗と一緒に登下校し、まるで奏斗をイジメから守っているようだった そんな晶にいとも簡単に翻弄されていく奏斗を心配に思っていたが、まだ優也が主犯だとバレていない ゆっくりやろう。焦らず、丁寧に。 「美月、話があるんだけど…」 次に行うのは邪魔者の排除 ただし、始末してしまうより共犯にしてしまった方が早い 後からお前も共犯だ、と脅してしまえば罪悪感から口出しできなくなるはずだと優也は考えた とは言え美月に出来ることは特にない ただ奏斗が優也の家にいることを警察に話さないようにしろと言っただけだが 奏斗のため、と言えば馬鹿な妹は快く協力を受けてくれた 計画を実行するのは両親が記念旅行で1ヶ月家を開ける間だ 大丈夫。完璧だ。 これは奏斗をあの父親から引き剥がすため、苦痛から解放してやるための準備にすぎない そうこうしているうちにすぐに時間は過ぎて、ついに優也は計画を実行した 奏斗は警戒心が全くない 飲み物に薬を混ぜれば簡単に飲ませることができた ちなみに違法な薬物は使っていない 後で後遺症があっても困る 強めの睡眠薬と媚薬があれば十分だ 案の定、奏斗は薬の影響で眠りについた そこから1週間、みっちり奏斗に洗脳を施した 定期的に媚薬を打って、快楽で攻めれば簡単に堕ちる 今まで何度も警察に父親のことを話すのを勧めたが、それでも奏斗はあの父親を警察に話すことはなかった そのことから、奏斗は父親に洗脳されているのだと優也は気づいた そのため奏斗は絶対に優也のこの行動に強く反対しただろう ならばこちらも優也の言うことをなんでも聞くように調教してしまおう 洗脳には洗脳を 奏斗にとってもそれが最前だと優也は考えた だが3日目あたりで流石におかしいことに気づいた美月が、もう辞めようと話してきたが、再び奏斗のためと念を押したのと、警察にバレたらお前も共犯だ、と釘を打てば何も言ってこなくなった そんなこんなもあったが、結果的に洗脳は成功した 1週間でここまでできたのは、元から築いてきたお互いの信頼関係のおかげだと思う 奏斗は優也の命令を何でも聞く、人形のようになってしまったが、洗脳も一時的だ 事が終わり数日も立てば、いつも通りの奏斗に戻るだろう 後は車で運び出し、警察にもバレない所まで逃げれば完璧だ 幸い悪行している知人にこの話をすると、度胸が気に入ったとかなんとか言って、車と逃走ルートを用意してくれた その後、ほとぼりが冷めるまで匿ってくれるとまで言うのだから、最初こそは怪しく思っていたが、元々認識があり、気に入られていたこともあってか、惜しまなく協力してくれるらしい イジメのこともあるのと、奏斗の靴やカバンをそこら辺の適当な道端に置いてきたため、たとえ捜索願が出ていたとしても、警察は家出の方向で探すと思うので、すぐに優也の家が突き止められることはない 時間はある 後は2人で逃げれば計画は成功する はずだったのに 「かなと、お兄ちゃん…」 家を出る直前、美月に話しかけられた 急ぎイライラしていたためその時は気づかなかったが、脱力した奏斗を見つめる美月の目は、何かを覚悟したような顔をしていた あの時、すぐに違和感に気づけていれば、こんなことにはならなかったはずなのに 失敗したのだ 身体中から伝わる痛みが、その事実を浮き彫りにする 奏斗 守ってあげられなくてごめん 救えなくてごめん あの日、初めて奏斗が傷だらけの体を見せてくれた時、父親とのことを話してくれた時 今でも覚えている光景だ アザを撫でるとくすぐったそうに笑う奏斗の顔も 心配そうな優也に、大丈夫だよ、と苦しげに言っていた顔も すべてが優也を惹きつけ、同時に酷く胸を痛めつけられた 最初は同情心からくるもだと思っていた 自分にだけに懐く奏斗に、特別心を抱いているだけだと思っていた だがそうではなかったのだ ああそうだ 思えばずっと昔から、この気持ちは芽吹いていたのだ 自覚するのに随分と時間がかかったが、今ならこの感情の正体がわかる 好きだ 奏斗 俺の愛しい奏斗 こんな状況になって今更ながらに気づいたって、もうどうにもならないが、どうか奏斗にこの気持ちが届いて欲しかった 優也は意識が途絶える寸前に、最後の力を振り絞り、小さな声で、そっと呟くように言った 「かな…と…だいすきだ…よ…」 これ以上、奏斗に不幸が訪れないことを そしてこれまで以上の幸せが、奏斗に訪れますように

ともだちにシェアしよう!