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第46話

次の日、警察は優也達の逃走を阻止するべく、あの紙に書かれた場所に繋がる道を封鎖すると言っていた 一体その場所には何があるのか晶はわからなかったが、とにかくそこへ行ってしまったらもう追えないと言うことは雰囲気で感じ取れた リビングから追い出された晶は警察と父が話しているところを廊下を塞ぐドアの隙間から覗き見ていた 音は小さくはっきりとは聞こえないが、おそらく例の虐待の件について話しているのか、ピリピリと空気は張っていた 義父は項垂れていた 怒るでも、泣くでも、慌てるでもなく、ただ俯いて。 その反応こそ、義父の虐待疑惑が真実なのだと、大いに語っていた 晶はショックを受けた それは優しい義父が実の息子に虐待していたことにも勿論だが、それよりも、晶ただ1人だけがそのことを知らなかったことに対してだった 優也は知っていた。赤の他人の美月でさえ知っていたのに、1番近くにいた晶だけが、その事実を知らなかったのだ 自分の鈍感さを今になって思い知らされる 義父の言葉を信じて、兄の気持ちなど見ようともしなかった自分が酷く愚かに思えた 今はただ、兄に会って直接謝りたい 気づいてあげられなくて、ごめん。と 警察の出動は優也達が出発した後だ 優也が乗り込んだ車のナンバー、見た目を間近で見れるのは美月しかいない 細心の注意を払いながら美月とコンタクトを取り、優也達が出発した後、すぐに美月と共にパトカーで先回りする それが今回の計画だ 本当は晶達は自宅待機を要請されたが、兄が危ないと言うのに、家でじっと待っていることはできない そこで義父は 「私たちも同行させて下さい」 「駄目です。あまり大人数で行動すると向こう側に勘付かれる可能性があります。それにあなたは…」 「お願いします。どうか、お願いします」 虐待の件で晶が義父を見る目は完全に変わっていたが、それでも兄を思い懸命に頭を下げている姿は、どうしても演技には見えなかった 困惑する警察だったが、あまりの真剣さに気圧されたのか、しぶしぶと言ったように晶達の同行を許可した 「向こうは銃を持っている可能性は充分にあります。自己責任でお願いします。くれぐれも無茶はしないと約束して下さい」 「ありがとうございます…本当に…」 義父に合わせて晶も頭を下げた 警察はそんな2人を見て、不安そうにため息をついたのだった そしてついにその時が来て警察達がパトカーに乗り込み次々と走り出す パトカーにはもちろん限りがあり、晶達が乗るほど台数はなかったため、晶と義父は自家用車で向かうことになった 警察達に遅れまいと慌てて車の助手席に乗り込んだが、義父は突然怒鳴るように晶に言った 「お前は後ろに乗りなさい!」 「は?でも…」 「いいから、早く」 急かすように言われて晶は慌てて後部座席に乗り込んだ 「シートベルトも、しっかり締めておきなさい」 どこか異様な雰囲気を纏った義父に言われるがままシートベルトを締めた 後部座席からは義父の顔は見えないが、ミラーから覗く彼の目は、何かを覚悟したような、そんな眼差しをしていた _________________________ 「いました!!あの車で間違いないです!」 美月が叫んだ途端、その場で待機していた警察が美月の指さす方向に一斉に視線を向けると、そこには黒い車が一台。 Uターンをして、警察のいるこの場所から静かに去ろうとしていた時だった 車は美月の声に反応したのか、慌てたようにスピードをあげ、逃げ出すように走り去る もちろん警察側も逃すまいと全力で追いかけた 「そこの車!止まりなさい!」 全てのパトカーがけたたましいサイレンを鳴らしながら車を追いかけていく様子を見て、車で待機していろと言われたはずの義父は、さらにパトカーを追いかけるようにアクセルを踏んだ 「追いつけない…っ、回り込むぞ、しっかり捕まってなさい!」 「ちょっ、義父さん何を…っ!?」 いきなりギュンッとカーブする車に体が追いつけず、晶は重力に負け左右に大きく傾く かなりのスピードが出ており、何度も義父に車を止まるように言ったが、全く聞く耳の持たない義父が、ブレーキを踏むことはなかった そして離れたところから聞こえるサイレンも追い越したと思ったら、義父はどうゆうことかいきなり方向転換し、サイレンのなる方へと車を加速させた 「っ!?あんたまさか…止めろ!今すぐ!」 「これしか方法がないんだ!いいか?晶、俺のことはいい。車を降りたらすぐ奏斗を助け出せ」 「無茶言うなよ本気か!?そんなことしたらあんたは…」 「掴まれ!!」 その言葉を合図に晶は反射的に頭を抱えてうずくまる 目の前には先ほどの黒い車が、ぶつかる直前まで迫っていた ガシャンッガッ——バキバキバキッッ 鈍い音と共に車体は大きく揺れ、その反動で晶は意識を失った 目が覚めると晶は宙吊り状態で、シートベルトに体が食い込んでいた どうやら車体はひっくり返ってしまったようで、晶が気絶していたのはものの数分だった 車内を見渡すと、前方には義父の姿があった 義父も晶同様宙吊りで、意識がないのかぴくりとも動かない 助けなければと思ったが、先ほどの義父の言葉を思い出し、とにかく、外に出なければと、衝動的に思った 「げほっ…っ」 体の節々に痛みを感じるが、致命傷ではない 宙吊り状態から脱すべく、晶はシートベルトをなんとか外し、眩む頭を抑えながら這いずるように車から出る 一目散に探したのは奏斗の姿だった フロントガラスが周りに散布し、靴の裏からザクザクと音を鳴らしながら辺りを見渡した 目の前に広がる光景はまるで地獄そのものだった 2つの車体は前方がぺしゃりと潰れており、おそらく相手側の運転席に座っていた男はもう助からないだろう 晶は騒ぐ胸を抑え、助手席に目を向けるがそこはすでに空だった 慌てて見渡せば少し離れたところに2つの人影があった それを見つけた瞬間、晶は人影の方へ全力で走っていた

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