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第55話
「奏斗、ご飯だよ」
皿へ盛り付け終わった晶は、キッチンから声をかけるが、奏斗の姿は見えない
皿をリビングに起き、奏斗を探す
いつもならソファか自室にいるが、今日はそうではないらしい
「奏斗?」
晶は少し不安になり玄関に向かう
玄関の扉には頑丈な鍵がかかっており、専用の鍵がないと出られない
鍵を確認すると、変わらず付いていることに安心した晶は、再び奏斗を探し始める
トイレ、クローゼット、ベッドの下、あらゆるところを探すが一向に見つからない
「…っしゅん…」
しばらく探していると、どこからか小さなくしゃみが聞こえてきた
晶はその音に向かって歩き始める
扉を開ける時は必ずノックをしてから開ける
これは奏斗が驚いてパニックにならないようにと、宮本さんからのアドバイスからだ
浴室の扉をコンコンっと小さく叩いてから開けると、奏斗の姿がそこにあった
浴槽で縮こまり、ぼーっと天井を眺めていた奏斗は晶の存在に気づくと、不機嫌そうに目を細めた
「ご飯だよ」
「………ふぅ…」
晶が言うと渋々という感じで小さくため息をついた
おそらく奏斗にとって浴室の程よい閉鎖空間は安心するのか、最近はよくここにいる
湿気も多く風邪を引かないか心配だからあまりここに長居はしてほしくないが、奏斗の行動を制限するのもよくないと思い、短時間であれば好きにさせるようになった
晶はいつものように奏斗を抱き上げるとリビングに連れて行き、椅子に座らせた
そして晶も隣に座ると流れるように、食事を晶がよそい、それを奏斗の口に持っていく
奏斗は自分で食べようとはしないため晶が食べさせてやるしかなくなった
今ではそれが当たり前になっている
「もう食べない?そう…でも食べれて偉い」
奏斗が満足するのは早く、少ししか食べてなかろうが晶は褒めるようになった
あの日、宮本さんが幼児退行だと言った時、今まで奏斗が求めていたのは優也ではなく母だったことに気づいた
それからはなるべく母の真似事をするようになった
声音までは変えられないが、言動や仕草を真似てやると、前より言うことを聞いてくれるようになった
晶は記憶頼りに母の真似事をするが、優也とは違い、身近な人の真似ならそれだけでやりやすい
幸い晶の髪は母と同じ黒髪で、顔の黒子の位置もほぼ同じ
奏斗もたいぶ晶に接しやすくなっただろう
兄さんと呼ぶのもやめて、名前で呼ぶようになった
それが1番効果があった
その点に関しては宮本さんに感謝せざるを得ないだろう
ちなみにあの日から学校には一度も行っていない
宮本さんも家には尋ねてこない
だからいくらでも奏斗の側にいることができた
外に出る時と言えば、食材がなくなった時にスーパーに買い出しに行くくらいだが、最近は少しおかしいのだ
買い出しに行ってたった5分しか経っていないというのに無性に帰りたくなる
家にいる奏斗の様子が気になってしょうがない
何か困っているのではないか、怪我をしたりしていないか、異常に不安に狩られるのだ
それに伴い、晶自身も他人と触れ合うのが怖くなった
宮本さんに奏斗を取られそうになった日、本当にこの世の終わりのような絶望感を感じた
兄を失いたくない、手放したくないと、気持ちが上回り、ついにはすれ違う全ての人に疑心暗鬼に接するようになった
監視されていると感じることもあれば、付けられているという日もあり、内心外に出るのが怖くなっていた
晶もこれは異常なことだと思うが、考えずにはいられない
晶がいない間に、奏斗を連れ去る誰かがいるのではないだろうか
宮本さんと手を組んで、晶から奏斗を奪おうとする人がいるのではないだろうか
そう感じるようになってからは、外に出るのも最小限で、なるべく早く帰るようになった
「お風呂入ろうか」
「………」
一日中奏斗の傍にいるようになった晶は積極的に奏斗の世話をするようになった
風呂自体は奏斗は好きなのか、湯船に湯を張ると、自ら入っていくが、毎度傍に晶がいることに対して不満を持っているらしい
全身を晶が洗い終わって湯船に入れてやると、まるで用が済んだとでも言うように、じとりとした目で睨んでくるようになった
晶が邪魔でリラックスできないのだろうから、晶もそれに従い浴室からは出るが、奏斗が出てくるまでずっと浴室前で待機するようになった
それさえも嫌なのか、時々扉越しにバシャンと湯船の水をかけられる
こちらは濡れたりなど一切しないが、明らかにイラついている日は、そのように八つ当たりをしてくるようになった
最近は意思表示もわかりやすく、そんなところもどこか子供らしい行動に、晶は怒るどころか微笑ましい気持ちになっていた
「もう出なきゃ、のぼせちゃうよ」
「…ん…」
あまりにも入っている時間が長いと晶は奏斗の腕を引き湯船から出す
ついこの間、晶のおでこをシャワーヘッドにぶつけて血だらけになったことがあり、奏斗は血を怖がっていた
その嫌な記憶があるからか、風呂場では暴れることはなくなった
よっぽど血を見るのがトラウマなんだろう
晶もそのことがあり、浴室では慎重に行動するようになった
ただでさえ滑りやすい場所だから、怪我をさせないように気をつけなくては
「痣、薄くなってきた…」
「…っ!」
「あっ…ごめん、にいっ…奏斗」
タオルで履いているとふと目に入った脇腹の痣に手を這わせた途端、奏斗に手をパシリと振り払われてしまった
きっと敏感なところだったのだろう
大袈裟なほどビクリと体を揺らした奏斗はキッと晶を睨んできた
慌てて手を引っ込めたが、気分を害したのか、奏斗は晶から服を奪い取り洗面所から出て行ってしまった
「奏斗、悪かったよ」
「………」
晶は慌てて奏斗を追いかけるが、奏斗は止まることなくそのまま自室に入っていった
バンッと目の前でドアを閉められて、相当怒っているのかと思い、一度はその場を離れることにした
だがまだ髪も乾かしていないし、歯も磨かないと
しばらく経ってからまた奏斗の部屋の前にやってきた
「奏斗?さっきはごめん」
「………」
「入っていい?」
声をかけても返事がないためもう眠ってしまったのだろうか
「入るよ」
一応再び声をかけてドアを開ける
部屋のベッドの上に毛布が膨らんでいるのを見つけた晶はゆっくり近づくと、膨らみがビクッと震えるのが見えた
「奏斗、さっきはごめん…奏斗?」
声をかけても反応がないのはいつも通りだが、布越しに動く息遣いが妙に早い
「奏斗、大丈夫?」
具合でも悪いのだろうか
心配になった晶は奏斗に被る毛布を剥ぎ取ろうとするが、対する奏斗はそれを拒否するように毛布を握りしめている
体調が悪化してはいけないと無理に毛布を取り上げると、異様に紅潮した奏斗の顔が見えた
やはり熱でもあるんじゃないか
「奏斗、顔見せて」
「んやっ、ぅうぅ…」
顔を背けようとする奏斗を起きあがらせ、おでこに手を置く
奏斗はいやいやと首を振るが、言い聞かせるように目を合わせると、諦めて動きを止めた
やはり熱い
風邪を引いてしまうと大変なので薬を持ってこようと立ち上がった際、晶は気づく
奏斗の動きが変だ
もじもじとどこか落ち着かない様子で、両の太ももを擦り合わせるような動き
トイレを我慢しているわけでもなさそうだ
まるで晶から隠すようにそこに手を置く奏斗を見て、まさか、と思った
「奏斗、見せて」
「…うっ、んんっ!」
「大丈夫、怖くないから、ね?」
奏斗は嫌がるが、晶は奏斗の腕を掴みベッドに押し倒すと万歳の姿勢に固定した
そして晶は奏斗の下半身に目を向ける
風呂では正常だったそこが、芯を持ち始めているのを見てしまったのだ
奏斗は恥ずかしいのか顔を隠すように背けるが、可哀想なほど赤くなってしまった耳が目に入る
奏斗はそんな態度をとるが、人間なら誰しも起こる生理現象だ
何もおかしいことはない
確かに奏斗は自分で処理するような状態ではない
それなら溜まっているのも無理はないし、そもそも先ほど晶が脇腹に触って、奏斗を刺激してしまったのがいけなかったのだ
なら、この責任は晶にあるんじゃないだろうか
晶の喉がゴクリと音を鳴らした
「…俺が、手伝ってあげる、から」
「!?んやっ、んっ、うう!」
晶の言葉にぴくりと肩を揺らし、奏斗がいやいやと本気で暴れ始める
覆い被さる晶の手を振り払ったり、足で蹴ったりして逃れようとするが、奏斗の力は弱く、晶には敵わなかった
「大丈夫、抜くだけだから、な?怖くないから」
「ひぅ、うぅ、ひくっ…」
晶はそんな奏斗を抱き上げると、晶もベッドに上がり、奏斗を後ろから抱き込むように膝の間に座らせた
奏斗もじっとはしておらず、何度も逃げようと抵抗したが、それも虚しく晶に抱き込まれ、ついに目に涙が浮かんだ
いつもなら晶は奏斗の嫌がることはしない
ここまで抵抗すれば晶は諦めるはずなのに今日は違かった
大丈夫、怖くない、と子供に言い聞かせるように言われ、余計に奏斗の恐怖を煽る
「すぐ終わる、1回だけだ…奏斗…」
「…っ!んぅ、ぅ…」
耳元で囁かれたと思うと、晶はそっと背後から手を伸ばし、布越しに奏斗のそれに触れた
ビクッと肩を揺らした奏斗は、もう逃げられないと諦めたのか、涙目を伏せて俯き、縮こまるように固まった
そんな奏斗を可哀想に思いながらも、晶の手は奏斗の下着の中へと滑り込む
もうすでに萎え始めていたが、今更止めることなど晶の頭にはなく、手で優しく包むと、奏斗の体がふるりと震えた
「大丈夫、大丈夫」
「ん、ふぅっ、ひくっ、ふぅゔ」
晶はゆるゆると手を動かし始めた
奏斗は顔を腕で覆い隠し、ただただ嗚咽と嬌声を漏らす
抵抗をしなくなった奏斗をいいことに、再び芯を持ち始めたそれを、ゆっくり上下する動きから弄ぶように、より敏感な箇所を攻める動きに変えた
「んぅっ、ふぅゔっ、んくぅ、んっ」
「………っ」
晶は夢中になって、奏斗を見つめる
刺激するたびに奏斗の肌が揺れ、硬く閉じられた瞳から涙が滲む
奏斗は必死に強張らせるが、耐えきれずくねる体は、何よりも艶かしい
晶はその反応を楽しむように手を動かした
「は、はぅっ!んくぅ…」
奏斗からは聞いたことのない甘い声
晶はその声が盛れる濡れた唇を見やる
キスしたい
でも、きっと奏斗は嫌がるだろう
グッと自分の唇を噛み締め、再び意識を指に戻す
ビクビクと震えるそれはもうそろそろ果てるはずだが、どこか物足りなそうな奏斗の反応を見て、晶はつい、その奥まで手を伸ばしてしまった
握るそれよりもっと先、奏斗の可愛らしい小さな蕾
そこにつぷりっと人差し指を入れた
「ひあっ、うく、んんうっ!」
「ごめん、ごめんなさい。あとちょっとだから、少しだけ…」
奏斗は驚き、晶の手を掴み止めようとするが、謝りながらも止めることなく、晶は指を進めていく
クチュ、クチュと指を動かすたび、奏斗の体が大きく跳ね上がる
あの無愛想な奏斗が、自身の腕の中で乱れる様子を見て、晶は再び喉を鳴らす
晶自身のモノも、硬くなっていくのを感じた
「ふぅっ!あ、あぅん、くぅっ!」
「あ…ここ、いいところ?」
柔らかいそこにある少しだけ膨らんだ箇所を指がかすめると、奏斗の体が激しくビクついた
晶はそこが前立腺だということに気づくと、より一層強くそこを攻め始める
優也はここに自身を埋めたんだ
奏斗もそれを受け入れて、奴に善がってイったんだ
そのことを1人で想像してしまい、恨んでいるような、羨ましいような感情が入り混じり、奏斗に当たるようにそこだけを蹂躙する
奴はズルい、いつだって奏斗の傍にいたし、一緒にいる時間も長かった
俺だって奏斗と早く出会っていれば、こんなことにはならなかった
俺だって、義兄弟じゃなければこんなこと…
激しくなる一方の攻めに、奏斗は耐えるように足先を丸め、晶の腕を掴む手は爪が食い込むほど力を入れた
晶の腕からは血が滲むほどで、それほど痛いはずなのに、晶の意識は変わらず指先に集中していた
「ふぅゔっ!あっんあっ…ひぅ」
「イっていいよ」
「…んぅっ————!!」
奏斗の限界が近づいていることを悟った晶は、耳元で囁くように言った
それが奏斗を刺激したのか、中が脈打ち晶の指を締め付ける
同時に奏斗の前も絶頂を迎え、晶の手の中で果てた
「はぁっ、ふ、んん…」
「………」
ぐったりと力を抜いた奏斗をよそに、晶は奏斗が自身の手に吐き出した愛液をじっと見つめた
気持ち悪いと本人も思うが、気づいたらそうしてしまっていた
何を思ったのか自分の指についた愛液を、なんの躊躇いもなくペロッと舐めとったのだ
「———っ!!」
その一連をぼーっと見ていた奏斗だったが、まさか舐めるとは思わなかったのだろう
慌てて晶の手を掴み顔から遠ざけるように引っ張ると、信じられないものを見る目で晶を見た
その目は警戒する猫のように開き、瞳孔も小さくなっていた
「…ごめん……」
「…っ、……」
晶はやってしまった、と思う反面、驚き目を見開いている奏斗が珍しくて、その姿が可愛らしいと思ってしまった
晶は謝りながらも無意識に奏斗を見つめ続けた
怒ったのか、呆れたのか、奏斗は目が合っていることに気づくとおずおずと視線を外す
「またお風呂入らないと…奏斗?」
晶がそう言うと、奏斗は思い立ったように立ち上がり、晶の手を引いて部屋を出る
こんなこと、今まで一度もしたことないのに、奏斗に腕を引かれたことに驚いた晶は、されるがまま奏斗について行った
向かう場所は浴室
晶を荒々しく浴室に押し込んだ奏斗は、徐にシャワーの蛇口をひねった
「っ、つめた」
出てきた水は冷水で、足先に当たったのを咄嗟に避けたが、それもすぐに意味がなくなった
奏斗はシャワーを持つと、迷いなく晶に向けて水を放った
「な、に、どうしたんだよ…寒い…」
「ん!」
頭からおもいっきり水を被った晶は、まだ脱げてもいない服までもびしょびしょに濡れてしまった
あまりの寒さに咄嗟に水を避けると、奏斗は後を追うようにまた水をかけてくる
言葉はないが、その態度から怒っているのだとわかる
まるで動くな、じっとしていろと言うように睨まれ、晶は寒さに耐えながらも諦めて奏斗の好きにさせることにした
「ん、手?…ああ、そっか」
「………」
奏斗は徐に晶の両手を取ると、そこにシャワーを向け奏斗の袖でゴシゴシと荒々しく洗い始めた
先ほどの行為がよほど嫌だったのだろう
聞こえはしないが口を開閉し、時々ぶつぶつと嫌味を溢しながら必死に晶の手を洗っていた
いつもは全て晶にやらせてシャワーなど触りもしないのに、こういう時は自分で行動するんだな、とぼーっと考えた
袖に染みたり、弾けた水で奏斗の服も冷水に濡れていく
本人も寒いはずなのに、構わず洗い続ける姿を眺めていたが、流石に長いので、晶はやっと奏斗からシャワーを取り上げた
「さすがに寒いよ、お湯に変えるから…ああダメだよ奏斗、濡れてるから外出ないで」
温度の調節をしようとすれば、拗ねた奏斗が浴室から出て行こうとして慌てて止める
思い通りにいかなくてむしゃくしゃしているのか、奏斗はむすっと顔を歪めていた
「風邪ひいちゃうし汚れも落とさないと」
「…んっ、ぅうっ」
なんとか奏斗を引き戻すがじっとしてはくれない
これも幼児退行が原因だろうから、言うとするならばイヤイヤ期みたいなものだろうか
なんとか奏斗の服を脱がせ終わった頃には、奏斗は大人しくバスチェアに座っていた
ちなみに晶も裸だ
あれほど濡れてしまっては、着ているだけで寒く、とても耐えられるものじゃない
奏斗は不服そうだが致し方ない
晶の手と同様、奏斗の下半身も汚れているのでそこに重点的に湯をかける
この短時間で2度も風呂に入ることが気に食わないらしく、相変わらず不機嫌そうではあるが、一応はじっとしてくれていた
だが
「、ぅっ!」
「大丈夫もうしないから…悪かったよ」
「………」
背後からその箇所を洗おうと手を伸ばした瞬間、パシッと奏斗に振り払われてしまった
明らかに怒っていた
晶もそれはわかった
いつもならそんなことは思わないのに、奏斗の新鮮な姿を見れたおかげか、晶はきっと調子に乗っていたのだ
もっと反応が見たい
そう思ってしまった
「…っ!」
「兄さんの気持ちいいところ、わかったよ」
晶は突然、後ろから奏斗を自身に抱き寄せると、耳元でそう呟くと同時に、奏斗の背中に手を伸ばし、尾骨あたりをとんっと指で叩いた
ほんの意地悪のつもりだったが、奏斗にはだいぶ効いたらしい
ピクッと体が跳ね、見ると奏斗の耳はまた真っ赤に染まっていた
それもそのはず
これほど密着していれば、奏斗も気づいているはずだ
今にも欲望を吐き出そうと、怒り立つ晶のそれが、奏斗の尻に当たっていることに
「兄さんはあったかいなぁ」
奏斗は動かなかった
晶は冷たい体に染み渡らせるように、奏斗の首に顔を埋めた
滑らかな肩に頰ずって、跡がつかないように優しくちゅ、ちゅ、とリップ音を鳴らしていく
いつもなら嫌がるはずの奏斗も今回はじっとしていた
それをいいことに、奏斗の肌に触れて、晶のそれがまた疼き始める
これ以上は求めても無駄なのに、それは奏斗を欲している
でも我慢するしかない
それだけは絶対にしてはいけないことだ
自分の欲望通りに動いてしまえば、奏斗に嫌われてしまうことは目に見えている
ただでさえ今も嫌われているのに、これ以上彼の気に触れたら、今度こそ見放されてしまうかもしれない
そう考えてハッとする
俺はいったい何をしているんだ
「ごめんつい、兄さ…奏斗…」
「……ふっ」
バッと奏斗を自分から引き剥がし、すぐに謝る晶だったが、覗き込んだ奏斗の顔を見て息を呑んだ
奏斗は手でかざすように顔を隠していた
隙間から見える顔は赤く染まって、伏せ目がちの瞳は潤んでおり、今にも泣きそうだ
恥ずかしがっているということは晶もわかる
ただ、久しぶりの兄の人間らしい姿を見て、晶は驚いたのだ
いつも反応は薄いし、表情だって変わりはしない
その奏斗が恥ずかしがっている事実に、なんとも言えない気持ちになった
「……かわいい……」
口から出た言葉はほとんど無意識で、小さく呟くようなものだったが、奏斗にはしっかり聞こえていたようで、顔が一層紅潮した
「ごめんって、奏斗っ!」
「……っ」
「あっぶな…」
バンッと音を立てて目の前で勢いよく扉がしめられ、ぶつかりそうになるのをすんでのところで足を止めた
先ほどと同じような光景にデジャブを感じる
結局からかいすぎて拗ねてしまった奏斗は風呂を出るや否や自室に引きこもってしまった
奏斗は部屋に鍵をかけることはできない
そもそも奏斗の部屋は内側からかかる鍵は取り外した
だから、晶が奏斗の部屋に入ることは簡単だ
でも奏斗の意思を無視して部屋に入ったところで、奏斗に追い出されるのが目に見えている
晶は諦めて奏斗の部屋から離れることにする
いろいろゴタゴタがあって奏斗も疲れただろう
今日はそっとしておこう
そう思いそこを離れた晶も自室に向かった
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