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十七、修羅場

 どのくらい眠っていたのか、千珠はふと、のしかかる重みに目を覚ました。 「あら、起こしてしまいましたか、千珠さま」  布団の中に女が入り込んで、千珠にのしかかっているのだ。見れば城で働く女中の一人で、中でも特に積極的な女である。  歳は千珠と変わらず、えらく勝ち気なまん丸い目をした女で、何度か千珠に食事を持ってくるという口実を使っては、関係を持ったことのある女だった。 「千珠さま、ここの所まるで構ってくださらなくて、わたくし寂しうございました。どうか抱いてくださいませ」 「……何だよこんな朝っぱらから……」  千珠の苦言を無視して、女は襟を開いて袖を抜き、豊満な乳房を千珠に見せつけた。千珠の手を取ると、自ら胸を触らせる。  ずっしりと弾力のある乳房を見ても、今の千珠は何も感じなかった。 「やめろって…さっきやったばかりなんだ、そんな気分になれない」  女は少し傷ついたような表情を浮かべ、千珠の上で息を飲んだ。 「何ですって、誰です?どこの誰とですか?!」  相手は舜海であるなどと、女相手に言えるわけがない。 「お前には関係ないだろう……いいから寝かせてくれ」 「やっぱり他にも千珠さまを狙っている者がいるのですね!」 「そんなこと、最初から気にしないって言ってたじゃないか。今さら喚くなよ」  女は憤りに顔を赤くして、千珠の腹の上に居座っている。そこへ、なんの前触れもなく襖が開いた。 「おい、いつまで寝て……!」  忍装束の留衣が立っていた。  布団の上で裸の女に乗られている千珠を見て、留衣の表情が硬直する。 「る、留衣様!失礼致しました!」  女は城主の妹が現れたことに驚き、豊満な胸を隠しながら慌てて去っていった。後に残された千珠と留衣は、気まずい雰囲気の中、しばし目を合わせる。 「……邪魔したな」 「おい、待て、違う!」  固まった表情のまま襖を閉めようとした留衣を、千珠は慌てて呼び止めた。留衣は恐ろしい形相で千珠を見下ろすと、「別にお前の色恋沙汰に首を突っ込む気はない」と、低い声で吐き捨てる。 「いや、朝の仕事の後ひと眠りしてたら、夜這われただけだ。何もしていない」 「別に私には関係ないと言っているだろうが!」 「いやだって、怒ってるじゃないか」 「怒ってなどいない!」 「怒ってるだろ!」 「この非常時に何をやってるんだと言っているだけだ!」 「すまん。……というか、俺は何もしていない」 「もういい!いいから早く紗代様んとこへ来い!」 「……分かった」  留衣がどすどすと足音も勇ましく行ってしまうと、柊が現れた。留衣の後ろに控えていたらしい。  柊はくすくすと笑いながら「突然開けてしまってすみませぬなあ」と、まるですまなそうではないにやけ顔でそう言った。 「お前もいたのか」  千珠は、面倒くさそう柊を見上げる。 「千珠さまともあろうお方が、あのように狼狽えるとは」 「放っておけ。で、何か動きがあったのか?」 「暴れているのです、舜海が抑えているのですが」 「早くそれを言えよ!」  千珠は大急ぎで布団から飛び出すと、寝所の方へ駆け出した。

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