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十八、陰陽師衆、安芸へ
その頃、舜海たち陰陽師衆は早馬で安芸へと向かっていた。
総勢十名の黒装束衆となると目立たないわけがないため、皆それぞれに平服を身につけての旅路だ。
青葉では好き勝手に着崩した法衣ばかり着込んでいた舜海だが、都では黒い狩衣をきちんと着るようにと言われていたため、窮屈さに耐えながらこの一年を過ごしてきた。そして今回も慣れ親しんだ法衣ではなく、青藍 色の直垂姿で馬を駆っている。
髪の毛も伸びた。今は耳の後ろで一つに結わえ、すっきりと額を出している。はっきりとした目鼻立ちが際立ち、昔よりも精悍な顔立ちになった。
すぐ横を駆けるのは、業平の娘、詠子である。
詠子はちらりと舜海と目を合わせ、煽るように唇を吊り上げて笑うと、勇ましい声を上げて馬を駆り、一馬身前へ出た。
多少癇に障る振る舞いではあるが、ここは年上の余裕を見せ、先に行かせておくのである。
こういった任務に、舜海が同行するのは初めてのことだ。広範囲に渡って術式を敷く難しい現場であるということから、特に霊力の強い舜海が選ばれたのだ。
何事にも動じず、術に集中するべし。
業平には強くそう言われていた。
言われなくてもそうするつもりなのに、いつになく業平はしつこく舜海にそう言い含めてきた。なるほどこれはよほど重大な任なのだろうと、舜海はやや緊張しながらの道中であった。
そんな舜海に、想像がつこうはずがない。
今宵の術式が、他でもない千珠のために行われるということを。
❀
禊から戻った緋凪に、千珠からの文が届けられた。
緋凪は、瑞々しい芳香を漂わせる水仙の花にくくりつけられた懐紙を開くと、さっとそれに目を通す。
そしてすぐにそれを久良に渡し、「燃やしておけ」と命じた。
今宵、何かが終わる。
海に浮かぶ大鳥居の足元を洗うように、ひたひたと満ちてくる水面のさざめきを、緋凪はしばし固い表情で見つめていた。
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