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二十三、銀色の光
舜海たちは、術を解くとすぐに東へ向かって海岸を駆けた。隠していた足の早い商船に全員が乗り込むと、一番近い陸地である備後の国に向けて舟を走らせる。
「すごい光景やったな。あれ、海神やろ」
「おお、あれを伊予にぶん投げよったな。一体誰の仕業やろうな」
と、そんなことを口々に噂する陰陽師衆の言葉を聞きながら、舜海ははっとした。
「まさか……」
――あんなことができるのは、今この世に千珠しかいない。
ということは、今回のこの大掛かりな術式、千珠のためにやっていたということか。
舜海はたまらず船室から甲板へと出て、凪いだ海を見渡した。
月影が、黒い波間に美しく光り輝いている。
上空を見上げると、白い月と星が、凍てつく冬の空に燦然と光り輝いている。
その星空に、千珠の瞳を見たような気がした。
「千珠……」
――あんな怪物とやりあって、あいつは無事なんだろうか……。
舜海は居ても立ってもいられない気持ちになり、顔を険しくした。
「それ、例の鬼の名か?」
気づけば横に立ち、その様子を見ていた詠子が声をかけた。舜海はぎょっとして、肩を揺する。
「……何でもええやろ。ちょっと、外の空気が吸いたかっただけや」
「ふん、そうか。……見ろ。あんな所に小さな舟がいる」
詠子の指差す方向を見遣ると、確かに、あんなにも物騒なことが起きたばかりだというのに、無防備な小舟が遠くに見えた。方向から見て、厳島の方へ向かっているようだった。
「……!」
舜海は、そこから懐かしい匂いを嗅ぎとったような気がした。
ぼんやりと見える、舳先に立つ細い影。
月影の中になびく、きらきらとした銀色の光。
――千珠……なのか? そこに、おるんか……?
舜海の苦しげな表情に、詠子は少し眉を寄せた。面白くなさそうに。
舜海はそんな詠子の表情に気付くはずもなく、ただただ、その小舟の影が消えて行くまで、ずっと見守っていた。
❀
「千珠さま、起き上がったらしんどいでしょ」
「こんな寒い舟に、寝転がってたらもっと寒い」
「またそんな屁理屈言って。もう妖力一つも残ってないんでしょ、身体に障りますよ」
舟を漕ぎながら、竜胆は舳先に座って月を見上げる千珠に声をかけた。
千珠はへろへろになりながらも、今回も竜胆の服を剥ぎ取って、身体に巻きつけていた。
それでも寒い。妖力の全てを失い、海水に濡れて芯から冷え切った身体をぶるりと震わせ、千珠は派手なくしゃみをした。
「千珠さまもくしゃみをするんですねぇ」
業平も舟を漕ぎながらのんきにそう言う。宇月は相変わらず心配気な表情で千珠を見上げている。
千珠はぶるっとまた身震いすると、不機嫌な顔で呟いた。
「寒い……」
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