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終話 凪ぐ心
厳島神社・高舞台の上に、白い衣を纏った少年の姿が一つ。
一つに結った長い黒髪を海風になびかせて、真昼の太陽の下、一人佇んでいる。
緋凪は、忍たちが舟で本土へ渡っていく姿を、静かな気持ちで見守っていた。
「……ありがとう。また、いつか会える日まで……」
ぽつりと呟いた言葉が、ふわりと空気に溶けて、消えていく。
緋凪は一人、穏やかな表情で微笑んだ。
「緋凪」
柔らかな女の声がした。緋凪は満面の笑みを浮かべ、くるりと振り返る。その表情はとても幼く、とても素直なものである。
「美雁姉さま!」
緋凪とどこか似た顔立ちの娘、美雁姫が立っている。美雁姫はどこまでも優しい笑顔で緋凪に笑いかけ、そっと手を差し伸べた。
緋凪は海に背を向けると、ゆっくりと姉の元へと歩み寄った。美雁姫の後ろには、にこやかに佇む久良の姿も。
どこからともなく春を告げるやわらかい風が、厳島を静かに吹き抜ける。
波の音とともに、穏やかに。
異聞白鬼譚【五】—荒ぶる海神— ・ 終
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