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十五、求めて、応えて
舜海は千珠をそっと横たえて、何度も唇を重ね合わせた。
――あぁ、ほんまに……ここにいるんや。俺の腕の中に。
夢のようだ。
会いたくて会いたくてたまらなかった。
顔が見たい、声が聞きたい、抱きしめたい、感じたい……心が枯れそうになるほど焦がれていた千珠が、ここにいる。
帯を解くと、白い裸体が露わになる。行灯の明りによって生み出される滑らかな陰影が、肌理の細かい陶器のような肌を美しく引き立てる。
しなやかに伸びた脚を持ち上げ、内腿から細く引き締まった足首にまで口付けを降らせると、千珠は恥ずかしそうに目を背けて唇を噛んだ。
舜海は身を屈めて、裸体のそこここに唇を滑らせ、その滑らかな感触を楽しんだ。知り尽くしている千珠の敏感な部分を、舌を尖らせ唾液を絡めて丁寧に愛撫する。
そして、千珠の反応を味わうのだ。
漏れる声、色っぽい溜息、快感にうち震える身体、恍惚とした表情で舜海を誘う千珠の琥珀色の瞳。どれもこれも指紋を付けることさえ躊躇われるほど美しく、かけがえが無いほどに愛おしい。
「ん……っ、は……」
「千珠……会いたかった。ほんまに」
舜海も衣を脱ぎ捨てて、肌と肌を重ね合った。この二年でさらに逞しく、完成された男の身体になった舜海の肉体を見上げる千珠の瞳が、うるりと揺れた。
「……美味そうな、男だ」
千珠はぺろりと舌なめずりをすると、肘で身体を起こし、逆に舜海に伸し掛かってきた。舜海の袴を解きながら、千珠は頬を桃色に染めて、ちらりと舜海を見遣る。
「……口で、してやる」
「え?ええよ、そんなんせんでも」
「いやだ、したい。……飲ませて、欲しいんだ」
「……っ」
恥じらうように伏せ目がちに、千珠は舜海の脚と脚の間に顔を埋め、舌を覗かせて先端を舐めた。
柔らかな舌の感触に、ぞくぞくする。加えて、この世で最も強く美しく、高飛車で生意気な千珠がこんなことをしているという姿を見ているだけで、舜海は早々に達してしまいそうだった。
「無理せんでええで」
「いいから、黙ってろ……」
台詞には可愛げがない。
しかし、うっとりと目を閉じて、美味そうに口淫に及ぶその姿は、えもいわれぬいやらしさだ。
「っ、あ……」
――やばい。良すぎる……。
舜海は、声を堪えて、千珠の髪を梳いた。
「苦しくないか、千珠」
「ん……う」
「めっちゃくちゃ気持ちええ。千珠……上手やで」
余裕のあるふりをしてそんなことを言ってはみるものの、ちょっと上下に動かれただけで、もう危うい。口一杯に舜海のものを呑み込み、ちょっと苦しげに眉を寄せながら愛撫をくれる千珠が、殊更に可愛らしく、愛おしかった。
「……っん……」
口の中で舌が蠢き、いい所をなぞられる。つい漏れ出た嘆息に、千珠の動きが速くなる。
濡れた音、熟れた果実のような唇の中に吸い込まれる自らの一部、どうしようもなく興奮する。気持ち良くて、たまらない。
「……く……っ」
なんの前触れもせずに放たれた体液を、千珠は余すことなく飲み干した。名残惜しげに吸い出され、丁寧に舐めて清められ、ようやくそれは千珠の口を離れた。
射精後の甘い痺れに、くらくらと目眩がする。
「……お前は本当に、美味だな」
千珠はそう言って、指先で唇を拭って微笑んだ。これから肉でも喰らってやろうかというような凄みのある、妖しい笑み。目が離せなくなる。
「舜……次はこっちに、欲しいよ」
「積極的やな、今夜は」
「早くしたい、欲しい……舜……」
千珠は舜海の太腿の上に跨り、首に腕を絡めて抱きついてくる。熱く火照った痩身は、薄明かりでも分かるほどに紅潮して、汗ばんだ肌が艶めかしい。
今にも泣き出しそうな表情で自分を欲しがっている千珠が、可愛くて仕方がない。
滅茶苦茶に抱いてしまいたい衝動に駆られるが、久方ぶりの二人の時間を飛び切り甘いものにしたくて、舜海はあくまでゆっくり、丁寧に千珠を愛でた。
身体を横たえ脚を抱え上げると、痛いほどに立ち上がった自分の根を、千珠の身体にすり寄せる。
そして千珠の中へと、指を潜り込ませた。
その中は既に熱く、ひくつきながら待っている。繋がり合うための、固い楔を。
「……しゃぶりながら、興奮してたんか。千珠」
「ん……んっ」
「……可愛いやつ」
舜海は、千珠の腹から臍を舌でなぞる。敢えて昂ぶった根や、感じの良い胸元には触れてやらず、焦らして焦らして、自分を欲しがる千珠の表情を堪能する。
――求めて欲しい。俺のことを、必死で……。
いい趣味とは言えないかもしれない。でも、見たい。
剥き出しの本能を。
「も……お願いだから、触っ……て」
切なげで、苦しそうな声。大きな目に涙をいっぱいに溜めて、千珠はいやいやをするように首を振る。
「舜、苦しいよ……いかせて……」
傷ついていない方の耳朶を食みながら、もどかしげに腰をもぞつかせる千珠の中に挿し入れた指を増やす。こんな浅い場所だけを弄られていたら、千珠が焦れるだけだということは百も承知しながら。
「ん、んっ……」
「もう、我慢できひんのか」
「やっ……いや、もう……」
「久しぶりなんやで、よう仕度せんと、お前が怪我をする」
「いい、痛くてもいい……!挿れて、はやく……っ」
「……可愛いな、お前は」
そう言いつつ、千珠のものを口に含む。先走りで既にとろとろに濡れていたそれは、二三度扱いただけで呆気なくこと果ててしまった。
殺しきれなかった甘い悲鳴を恥じるように、千珠は唇を噛み、腕で顔を隠してしまう。
その腕を引き剥がし、蒲団の上に縫い付ける。
ぽろりと一粒、涙が頬を滑り落ちた。
「はぁっ……はぁっ……」
「千珠……きれいや」
「ばかっ……見るなっ」
「何言ってる。これからが本番やろ」
ようやくもたらされた絶頂の余韻に緩む千珠の身体に、舜海は自分の身をあてがうと、ゆっくりと腰を進めてゆく。
「っん……うっ……!」
「痛い?」
「あっ……!あ、いいっ……、舜……っ」
「気持ちいい?」
「うん……っ、きもちい……っ、きもちいよぉ……っ」
「千珠……、目、瞑るな。俺を見ろ」
「ん、あ、あっ……」
「そう……そうや、見せてくれ、全部」
「舜……、名前、呼んで……っ、俺の……なまえ……」
喘ぎの間に間に、千珠はそんなことを訴える。舜海は求められるままに、千珠の耳元で名を囁いた。
「……千珠」
「ん、あっ!ぁ……あんっ!」
「千珠、千珠……」
名を呼ぶたび、きゅんと締まる千珠の身体。甘い叫び声を上げる、紅い唇。
潤み、透き通った琥珀色の両の目から、ぽろぽろと涙が零れ落ちる。それでも千珠は、舜海から目を逸らさなかった。
「千珠……」
――愛している。
「千珠……」
――お前の、全てを。
言葉には出来ない気持ちを、名前に乗せて囁くたび、千珠の目からは涙が零れた。
汗に濡れた肌を、長い銀髪がきらきらと彩るのが美しい。
片方になった赤い耳飾りが、行灯の光を受けてきらめいた。
繋がりながら、千珠に優しく口付ける。
切に恋しさを募らせ、求めていたものがここにある。
二年ぶんの想いを重ね合うように、舜海は何度となく千珠を抱いた。
蜜のように濃く、甘い夜。
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