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十一、宇月の戸惑い
柊は供として山吹と朝飛を連れていくことに決めた。
山吹と朝飛は同じ年に忍寮へ入った者達で、技量も力も確かだと柊が認めた二人である。
宇月には、舜海が事の顛末を伝えることになった。千珠がいなくなったと聞き、宇月は力なくその場にへたり込む。
「……何故自分を受け入れないのかと、言われたのでござんす。私……千珠さまの気持ちを知りながら、ずっと子ども扱いをして突き放していたから……」
宇月は昼間に千珠に言われた言葉を、ずっと気に病んでいた様子だった。
「千珠は、お前に笑って欲しいって言っていた。昼間言われた言葉は、千珠の想いじゃない。気にすんな」
「舜海さまは、私を邪魔と思わないのでござんすか?」
「え?」
唐突にそんな事を言う宇月に、舜海は面食らった。小柄な宇月が、眉を寄せて舜海を見上げている。ちゃんと宇月の顔を見るのは、久しぶりだったことに気づく。
日頃ほとんど接点はない暮らしをしている二人とはいえ、何となく気まずくて、何となく悔しくて、きちんと宇月と目を合わせて話をすることを避けていたのも事実だ。
そんな舜海の態度にも、宇月は気を揉んでいたのかもしれない。自分の器の小ささに、舜海は改めて腹が立った。
「何言うてんねん。そんなわけないやろ」
「でも……私がいることで、お二人の中を違わせているのではないかと、ずっと気になっていたのでござんす」
「はぁ?」
「以前私は偉そうに、事はいいように進むなどと、舜海さまに言ったでしょう? その時は、お二人の中に自分が入り込むことなど、思いもしなかったのでござんす。でも……千珠さまはは私を見始めて……。どうしていいか分からなくて……」
「お前、そんな事考えてたんか」
普段は冷静で、自分よりも大人に見える宇月であった。だからこそ、いまいち何を考えているのか分からない部分はあった。
しかし、自分の言ったことで自分を縛り、千珠にも舜海にも遠慮していた宇月の気持ちを思うと、舜海は始めて得心がいった。
一歩引いた宇月の態度、それは舜海への遠慮以外の何者でもないのだ。
「……阿呆やな。俺らはそんなんじゃないって、言ってるやろ」
「……でも、舜海さまのお気持ちは、痛いほどに伝わってきます」
「いいねん、俺はこのままで。こういう時に、千珠を止めるのが俺の役目やからな」
「……」
「お前、千珠のことをどう思ってる?」
「えっ」
舜海の真剣な眼差しを受け止め、宇月はぎゅっと胸で拳を握りしめた。
「千珠さまの、おそばにいたい。意地悪なところもありますけど、あの方はとても不器用で可愛らしい方でござんす。あの笑顔を、ずっと、見ていたい……」
宇月のつぶらな目から、涙がこぼれた。
舜海は、微笑む。
「それを聞いて安心した。お前は、今回はここで待っとけ」
「え! 同行させていただけないのですか!?」
「今回はあかん。お前の役目は、ここで千珠を待って、あいつの帰ってくる場所になることや」
「帰ってくる場所に……」
「そうや。大丈夫、俺らが連れて帰るから。そしたら今度こそちゃんと、あいつのこと受け止めてやってくれ」
「……はい」
宇月は涙を拭って、はっきりとそう言った。舜海はぽんと宇月の頭に手を置いて気持ち良く笑って見せると、宇月もようやく微笑んで、指先で目元を拭った。
「これを」
宇月は懐から一枚の札を取り出して、舜海に渡した。
「護符か」
「何かしら、お役に立つと思いますので」
「おう、すまんな」
舜海は、懐にそれを仕舞い込む。
「お気をつけて行ってらしてください。千珠さまのこと、よろしくお願いするでござんす」
宇月は深々と頭を下げた。
「任せとけ」
舜海はそう答えると、くるりと宇月に背を向けて、柊たちとの合流地点へと駆け出した。
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