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十七、雷燕

 雷燕(らいえん)は、暗い暗い洞穴の中、ゆっくりと目を開いた。  感じる、自分と同じ気を持つ者がこの地へやって来た。  この数年、何人かの女の祓い人を襲って種を仕込んだ。  ある者はその身に宿した妖の力に身を滅ぼされ、ある者は雷燕に襲われたことを屈辱と感じ自ら命を絶った。  ある者は生まれ落ちた雷燕の分身たる妖に食い殺され、ある者はそのままその子どもを育てようとしたために、同胞たる人間に滅ぼされた。  襲った女全てが不幸の中死んでいった。雷燕はそれを感じるたびに、一人ほくそ笑んだものだった。    ――下等な人間が、我ら妖を狩って使役するなど、思い上がりも甚だしい。思い知るがいい、我々の憎しみと屈辱を。  自らの分身たる子どもになど興味はなかった。しかし、特別に強い力を得た種がひとつ、生き残ったことには気が付いていた。  しかし、その子はこともあろうか人間に使役されるために、どこぞへと連れ去られてしまった。  ところが、消えたと思っていたその妖気が、すぐそばにいる。  何か異様な匂いを纏いながら。  純粋な妖でもなければ、人間でもない。  しかし、強い、何か。  興味が湧いた。  この数十年、ただ人間を憎みながら生きてきた雷燕の中に目覚めた、今までとは違う関心ごと。  人間を苦しめるのに飽き、しばらくこの洞穴で眠っていたが、久しぶりに外へ出ようと思ったのは、そのためだ。  ゆっくりと起き上がっただけで、濃い瘴気がのっそりと流れ出す。洞穴から流れ出る瘴気によって、そばを飛んでいた鴎が海に落ちる。  雷燕は洞穴の縁まで出てくると、曇った空を見上げた。  波は相変わらず荒く、何もかも飲み込んでしまいそうな黒い渦を作り出す。その絶望的な風景に、雷燕は低く笑う。    その背中に、真っ黒な翼が開く。  黒く、艶やかな、巨大な翼が。  雷燕はその何度か翼を羽ばたかせると、すいと空へ飛び上がった。  燕たちが、雨が降る前に低く鋭く飛ぶように。  海面すれすれを、風を鋭く切り裂くように、雷燕は飛んだ。

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