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二十一、山吹の微笑み

 千珠は、陰陽師衆屯所の一室にて山吹に傷の手当を受けていた。  古いが広い敷地を持っているその屋敷には、多くの部屋が用意されている。  総勢十五名の陰陽師が加勢にやって来たため、静かで不気味だったその屋敷にも、にわかに活気が生まれている。別の部屋で、佐為も手当を受けながら眠っている。  胸がすくまで涙してしまったせいで、少し赤く目が腫れてしまったものの、千珠の心は静かだった。  上半身裸になり、切り傷に血止めを塗った布を貼り付けてもらいながら、千珠はたまに顔をしかめた。 「……滲みますか?」 「いや、大丈夫」 「……私は宇月さまほど手当がうまくありませんし、陰陽師の方にお願いしたほうがよかったんじゃ?」 「いや、山吹のほうがいい」 「……そうですか。ならいいんですけど」  山吹は淡々と千珠の白い肌に湿布を貼っていく。滑らかな白い肌には、女ながらに驚かされるばかりだ。 「……ごめんな、いつも」  ぽつりと、千珠は呟いた。山吹は手を止める。  千珠は少しだけ山吹の方へ頭を傾ける。さらり、と絹糸のような髪が背中を滑り落ちた。 「……いっつも、追いかけてきてもらってるよな。お前には」 「……よくご存知で」 「俺は甘えてばかりだ」 「……そうですね。まったく、宇月さまも心配されていましたよ。あんなお顔をさせて」 「宇月……。何も言わずに出てきてしまったからな……」  宇月の微笑みが、瞼の裏に浮かぶ。  会いたい。素直にそう思った。 「俺は馬鹿だ……本当に」 「そうですね」  山吹のあっさりした返答に、千珠はくすりと笑う。笑ったのは、久しぶりな気がした。 「終わりです」  山吹は最後の湿布を張り終えると、ばしっとその華奢な背を叩いた。 「いってぇ!!」  千珠の悲鳴に、山吹も笑った。

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