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二十三、雷燕の記憶
青く美しい空を、飛んでいた。歌うように、さえずりながら。
とある人間の棲家の軒下に、巣をかけた。
彼らはいつも自分に優しく声をかけくれ、楽しげに家族で仲良く暮らしていた。
そんな人間たちの声を聞くのが、好きだった。
子どもたちに追い立てられながら、くるくると飛び回るのが好きだった。
新緑の眩しい季節。
爽やかな春の風に包まれながら歌う自分の声が、耳に残っていた。
軽やかな、明るい歌……。
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雷燕は、目を開いた。
そこは、今夢のなかで見たような明るさなど微塵にも感じることのない、暗く冷たい洞穴の中。
虚しさが、雷燕の胸を襲う。
あの子鬼に切り裂かれた腹の傷から、人を想う気持ちがかすかに流れこんできたせいか、大昔の夢を見た。
人と暮らし、絆を結んでいるあの白い鬼。
忌々しい。
そんな絆など、自分の手で握りつぶしてくれる。
傷が、ずきんと痛む。
傷など付けられるのは、いつぶりだろう。
それこそ、初めて人間に襲われたあの日以来か。
邪悪な人間もいるということを、初めて思い知ったあの日。憎々しい、祓い人という人種の卑しい獣。
俺たちがお前らに何をした?
ずっとずっと、お前たち人間を守りながら生きてきたこの俺を、何故襲う。
何故、殺そうとする。
憎い、という感情を初めて知った。
知ってはならぬ、禁忌の感情。覚えてしまえば、ただひたすらに、その感情に心を食い荒される日々。
その日から、常に心に傷を負い続けた。
初めて人間を襲った日、村がひとつ滅びた日、逃げ惑う人間の恐怖の眼差しを受け止めた日……。
生まれたばかりの燕だったあの頃の……数百年前のあの新緑の明るさを、もうこの目に映すことはない。
――全て闇に返してやろう。あの子鬼も、陰陽師どもも。
人間を全て殺してしまえば、あの明るい歌声を、もう一度この身から生み出すことができるだろうか。
あの頃の穏やかな幸福を、もう一度、感じることが……。
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