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二十八、胸騒ぎ

 青葉の国。三津國城。  その日は、朝からの嵐だった。  重い空から激しく雨が降り注ぎ、雷鳴が轟く。強い風に煽られて、木々も激しく揺れていた。城の窓という窓の雨戸は閉じられて、昼間だというのに城の中はまるで夜のように暗い。  光政は天守閣の下で、じっと雨に濡れるのも構わずに空を見ていた。  胸が重く、不穏な胸騒ぎが止まらないのだ。 「殿、こんな所にいてはずぶ濡れですぞ」  重臣の一人、菊池宗方が背後から声をかける。光政は少し振り返ったが、すぐにまた外へ視線を戻した。 「宗方、なんだろうな、この胸騒ぎは。千珠が少しおかしくなってから、ずっと治らぬのだ」 「……千珠さまはあなたの命を握っている。それは彼もよく分かっているはずです。だからきっと、無茶はしないことでしょう」  宗方の落ち着いた声が、雷鳴で掻き消される。光政はじっと激しい雨を見据えながら、軽く頷いた。 「ああ……そうだよな」  ――千珠、お前は今、何を考えている?何故、俺の元を離れたのだ。  もうお前を一人にはしないと、誓ったのに。  お前もそう望んだはずだろう、千珠。  早く戻って来い。俺にまた無礼なことを申してみよ。生意気な口をきいてみよ。  光政は、体側で拳をぐっと握りしめた。  また、稲光が曇天を貫く。    不気味な黒い雲が、ゆっくり、ゆっくりと北へと昇ってゆく。

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