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三十九、銀色の光
「千珠!」
舜海は、木陰に寝かされている千珠の元へと駆け寄った。千珠は上半身裸のまま、じっと目を閉じて眠っているように見える。
上半身の傷は深そうに見えたが、血はもう流れてはいない。何よりも、その黒い髪に驚かされる。
それはまるで、満月の夜の千珠の姿のようだった。
「おい!大丈夫か!」
「……う……」
瞼を開いたその目の色にも驚く。
「そうか……夜顔の気を使ったんやな」
「紅玉が、……持っていったよ」
舜海は千珠の冷えきった細い身体を抱きしめた。鼓動が弱く、何とも頼りない。
「すぐ、元気にしてやるからな」
舜海は、残り少ない霊力の全てを捧げるかのように、千珠に唇を重ねて息を吹き込んだ。胸の上に置いた掌で、鼓動を確認しながら、何度も何度も、唇を重ねる。
どくん……どくん……。
千珠の拍動が、少しずつ強くなる。少しずつ、その身体に体温が戻ってくる。だらりと地に落ちていた千珠の手が、舜海の衣を緩く掴んだ。
目を開いて千珠の瞳を覗き込むと、そこにはいつもの美しい琥珀色の目があった。ほっとして顔を離してみると、真っ黒に染まっていた髪はいつもの銀色に戻り、久々に顔を出した太陽の光を受けて、きらきらと美しく輝いている。
「千珠……よかった」
「ぐっう……!」
千珠は雷燕に切り裂かれ、貫かれた上半身の傷を押さえて呻いた。意識がはっきりしてくるにつれて、その傷の痛みも感じているようだ。
「待ってろ、もう一度……」
舜海がもう一度気を送り込もうとするのを、千珠は手で制して止めた。
「いや……もうお前も、力が残ってないだろ。今はいいから……」
「でも……」
「俺の傷は、そのうち治る……。お前に気が戻ったら、またやってくれ」
「あ、ああ……」
「それより、山吹……。山吹の所へ行こう。あいつのおかげなんだよ、雷燕を止められたのは……」
「え?」
「あいつ、俺を庇ったんだ。だから……」
「よし、行こう。立てるか?」
舜海は千珠に肩を貸し、急いで陰陽師衆の屯所へと歩き出した。
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