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四十一、光政の目覚め

 光政は目を開いた。 「と、殿!!」  自分の枕元に、何人か人の気配を感じる。視線を巡らせると、そこには宗方と紗代の顔が見えた。 「あなた……目を覚ましたのですね!」  こんなにも動揺した紗代の顔など、見たことはなかったなぁと呑気に思う。 「宇月!目を覚ましたぞ!」  宗方が宇月の名を呼ぶ。ぱたぱたと駆け寄ってくる足音がして、黒装束の宇月が現れた。  その顔には安堵しつつも目元を腫らし、泣き疲れた表情があった。 「光政さま……!」 「俺は……どうしていたのだ?」 「ずっと、熱にうなされて眠っておられたのでござんす」 「……あ」  千珠の血に濡れた姿を思い出して、光政は目を見開いた。  ――しかし、自分が生きているということは、千珠も……。 「紗代、子どもたちの顔が見たいな……連れてきてくれないか」 「はい!」  紗代はそっと目頭を拭いながら、立ち上がって早足に部屋を出ていった。  宗方も宇月の横に座って光政の顔をのぞき込んだ。 「……俺は、千珠の姿を見た。血に濡れて倒れている姿だった」 「桜姫によりますと、殿の心臓は止まっていたとのことでした。しかし、数刻してからまた、動き出したと」 「……能登で一体何が起こっているのか。でも、俺は生きている。千珠も無事ということか」 「はい……」  宇月は正座した膝の上の拳を握りしめ、ぎゅっと目をつぶった。そこからぼたぼたと、涙が溢れ出す。 「もう、恐ろしくて恐ろしくて……。千珠さまに、もしものことがあったらと……」 「もう大丈夫だ。お前はしっかり。千珠を出迎えてやってくれ」 「はい……」  光政は、千珠を想い涙を流す宇月を温かな目で見つめていた。  ――馬鹿なやつだ、早く帰ってこいつを安心させてやれ。  帰ってきたら俺からも、しっかり叱ってやらなくては。 「殿、お子が」  宗方が笑顔になって、光政の子どもたちを迎え入れた。ばたばたと走り寄ってくる二人の息子に、光政は破顔した。  ここにも、青空が戻りつつある。

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