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三、光政の諭し
「そうか、お前に弟がいたとはな」
光政に槐のことを伝えておこうと、千珠は城の上層階にある光政の部屋へと訪れていた。
「はい、槐といいます。お初にお目にかかります」
槐は礼儀正しくそう言うと、深々と頭を下げた。きちんとした立ち居振る舞いをする槐が、千珠には誇らしかった。
光政は目を細め、楽しげに微笑む。
「えんじゅ、良い名だな。父上殿は、名前にお前たちの絆を込めていたのがよくわかる」
「はい」
槐はにっこりと笑って顔を上げた。
「こうして並ぶと、確かに似ているな」
光政は二人を見比べながら、頷きつつそう言った。
「お前がここへ迷い込んできたのが、ちょうど槐殿と同じくらいの年頃だったかな……。そう思うと、ここでお前は随分と成長した。絆も増えた。俺も嬉しいぞ」
「ありがとうございます」
光政は少し遠い目をしながら、千珠に笑いかける。
「今の僕と、同じ年の頃、でございますか」
「そうだよ。戦が始まる少し前だったな。あれからもう五年も経つのか」
「その頃から、もう戦へ出ておられたのですか」
「ああ」
槐は千珠を見上げてそう尋ねた。自分がその立場だったら、と考えているような表情である。
「……俺は戦闘種族だから、人とは違う生き方をしていただけだよ」
そんな槐の心を読み取った千珠は、先んじてそう伝えたものの、槐は少し複雑な顔をしていている。
「槐殿、千珠だって昔から今みたいに強かったわけじゃないぞ。悩んで、苦しんで、考えぬいて、ここにこうしているのだからな」
光政の言葉に、千珠は顔を上げた。交わした二人の視線の間に、数年間の思いが浮き上がるようだった。
戦のさなかの迷い、父の言葉、母の姿、そして光政の思い。色々なことがあった。自分に居場所と温もりを与えた最初の人間が、光政なのだ。
「だからそなたも、焦ってはいけないよ。人には人なりの成長の仕方がある。兄の背を追うのはいいことだが、自分の歩調を見失ってはいけない」
「はい」
槐はしっかりとした表情で、光政の言葉に応えた。千珠もじっと、光政を見上げた。
「まぁ、長旅で疲れたろう?なかなか会えぬ兄弟なのだ、しばらくゆっくり過ごしていくといい」
「ありがとうございます!」
元気な反応に、光政は微笑んだ。そして、その後ろにいる佐為にも目をやる。
「佐為殿といったね。そなたもゆっくりしていかれるといい。先程の件、千珠と話がしたいから槐殿を連れて先に下におりていておくれ」
「はい」
佐為も礼儀正しく礼をすると、槐を促して部屋を出て行った。
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