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三十二、後始末

  「なんということだ……」  痺れ薬を吸ったために起こった頭痛に苦しめられながら、光政は額を抑えて呻いた。まだ寝着の白い浴衣のみを身にまとった光政は、胡座をかいて舜海の入れた熱い茶をぐいと飲み干す。 「みすみす、千珠をそんな奴らに奪われてしまうところだったのか……」 「まぁ、今回は陰陽師衆のもんが数人おったから良かったですよ。俺らだけやったら、やばかったかもしれへん」 「その須磨浮丸という青年が祓い人たちを連れてきたような格好だろう?身内の犯行というのは、どうも始末が悪い」 「ですね。どういう処分を業平様が下すのか、分からへんけど……」 「しかしまぁ、千珠が無事で何よりだ。本当に良かった。後で俺にも顔を見せるように言っておいてくれ」 「おう」 「佐為殿は、どこまでも聡明な男だな。そんなにまでして千珠とこの国を守ろうとしてくれている」  光政は肘置きにもたれて、白んできた空を見上げる。ぴちち、と雀の歌い回る声が平和に響いている。 「そうやな……ほんま、都の陰陽師衆は、皆そんな覚悟で日々鍛錬しとるのかと思うと、俺も身が引き締まる」 「せいぜい励め。青葉でそういった輩から千珠を守れるのは、お前と宇月しか居ないんだ。……これはやはり、業平様のお申し出を受けるべきなのだろうか……」 「申し出って?」 「有事の際に備え、陰陽師衆数名を常に青葉に置いておく、というご進言だ」 「ああ……」 「千珠は、舜海と宇月がいればそれでいいって言っていたから、その話は立ち消えているがな」 「そっか……。でも、考えたほうがええかもしれへんな……」 「あちらと我らの繋がりは深い、それに頼ってもいいかもしれぬ。事実、我らの兵に城壁の外を守らせていたが、なんの役にも立たなかったからな」 「せやなぁ……、ま、それは追々考えましょう……」  あーあと大あくびをする舜海を見て、光政は笑った。 「緊張感のないやつめ」 「さっきまで緊張しててんからいいじゃないですか。あーあ、眠た」 「まぁ今日はのんびり昼寝でもしていろ。あとの処理はこちらでする。その祓い人の遺骸も、我らで火葬しよう」 「すんませんね。佐為が行く先々で死体を拵えるから。あ、あと城壁の修繕もお願いしますよ」 「分かってる、すぐに手配するよ」 「あーあ、眠い」  よっこらせ、と舜海は立ち上がり、頭痛のせいで青い顔をしている光政をふと見下ろした。  命で繋がっている、千珠と光政。ここにも確固たる絆が見える。  安堵した表情を浮かべて目を伏せている光政は、今でも千珠を慈しんでいるのだろう。自分以上に、やすやすと千珠には触れられぬこの男は。  募る想いをどうやって、その胸にしまい込んでいるというのだろう……。  舜海はくるりと踵を返し、一礼してからその場を下がる。  ようやく活気の戻ってきた城内を裸足で歩きながら、舜海は小さくため息をついた。

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