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 泡がくすぐったいのか、耳の傍の泡が弾ける度にぴくぴくと小さな三角耳が一人前に忙しなく動いて、一生懸命に泡を弾き飛ばそうとするのをかいくぐって、満遍なく赤い泡を擦りつける。 「よく洗っとこうな、念入りに……」  とは言え、手の中の石鹸はもうずいぶんと小さいし、黄色い液体を入れた瓶は半分以上中身がない。  クラドが時間をもっとくれていたなら、予備も用意することはできただろうけど…… 「ああ、でも、黄色い方は日持ちしないんだっけ」  ラフィオが特産のテリオドス領ならではの、染料作りの作業者だけが無料で手に入れられる贅沢品だ。  鈍い光を反射するガラス瓶を見下ろしながら、この手持ちが無くなってしまったらと考えると自然と眉間に皺が寄ってしまう。  ヒロには、これがどうしても必要なのに……  クラドはヒロのことをなかったことにしたいのだと思っていた。  現に名前を呼ぶことはなかったし、オレの腕の中に視線をやろうともしなかった。  だから、最悪の事態として、クラドがヒロを存在しなかったことにするんじゃないか……と恐ろしい考えが浮かばなかったわけじゃない。  けれど、見た目と違って小さな子供にも優しく接することのできる、子供と遊ぶことが好きなクラドだから、受け入れてくれるんじゃないかって思いも同時にあった。  だから、ヒロを抱いている姿を見た瞬間にほっとしてしまって、廊下から差し込む光で見えたクラドは昔からの優しい表情をしていたから……  固く締めることができたと思っていた心の蓋が、少しだけ緩んでしまったのを感じた。  その気の緩みは、オレ以上にクラドの方が敏感だったのかもしれない。小さくスンスンと鼻を鳴らしながら壁際に追い詰められて、逃げ場がない状態で甘えるように頭を預けられれば、オレから否と言う言葉は言えなくて……  やっぱりどうしようもなくこの人が好きなんだって。  風邪を引くから髪を拭くと言う名目で、繰り返し繰り返し濡れて癖の取れた髪を梳かれて、暗い闇の中でその感触を堪能されて……  これがいつかの、あの薄暗い森番小屋での再現なんだって気がついた時には、濡れて冷えていた体がクラドの大きな体にすっぽりと包まれてしまっていた。  熱いとも感じる体温は、それだけで安心してすべてを委ねたくなってしまうほど魅力的で、「触れたい」と請われれば最後の砦とばかりに抱き締めていたヒロを、ベッドに寝かせる時間が欲しいと逆に願い出てしまうほどだった。 「はるひ、気持ちのいい、綺麗な髪だ  」  綺麗だ と繰り返すけれど、この暗闇の中で感触以外の何がわかるのか……  すべてが闇に落ち込んでしまって、見えるのは何色かもわからないような無彩色の世界だ。

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