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あれからずっと、クラドはかすが兄さんとのことを認めてもらうために、あんなゲーム世界のモンスターのような存在との戦いに飛び込んで行ったのかと思うと、思いの強さを見せつけられたようで……
ただ、もう、本当に、……苦しくて苦しくて堪らなかった。
喉の渇きに呻こうとしてもそれすら声にならなくて微かに唇だけが動いたと思う、そうしたらすぐに冷たい水が少しだけ流し込まれて、ほっと胸を撫で下ろした。
かすが兄さんが聖別してくれた水を飲んだ時と同じような、すっと染み渡るような清涼感を感じるような感覚を思い出して、オレははっと目を開ける。
美しい、銀で作られた瞳がオレを映しているのが見えて……
「 」
かすが兄さん と声を上げたつもりがうまく言葉が出なかった。
「はるひ? っはるひが目覚めた!スティオンを呼んでっ!」
かすが兄さんがそう叫ぶと足音が慌ただしく遠ざかって行くのが聞こえて……
オレは何が起こったのかよくわからなくてぽかんとした顔をしていたのかもしれない、ずっとオレを覗き込んでいるかすが兄さんの瞳がゆっくり滲み始めて、ぽとん と頬に温かい雫が零れ落ちてきて初めて森で瘴気に襲われて、その影響で倒れたのだと思い出した。
「 」
はく はく と口だけが動くのを見たかすが兄さんが、ガラスで作られた吸い飲みをそっと口に添えてくれる。
気持ち的には一気に飲んでしまいたかったけれど、ほんの少し水が口内を湿らせただけでも噎せそうになって諦めるしかなかった。
「よかった 目が覚めて……っ 」
吸い飲みが震えて中の水がちゃぽちゃぽと騒がしい音を響かせる。
「 に、さ 」
ほんの一言喋るだけでも信じられないような疲れに襲われて、溜息と共にきつく目を閉じた。
「まだ辛いな?兄さんがここに居るからもう少し休むといい」
心地よい響きの鈴を転がしたようなかすが兄さんの声を聞いていると、体がふっと楽になって、どうしようもなかった疲労感が軽くなる。
人々を護り、清め、そして浄化する……
皆が讃える通りの人物なんだ と、かすが兄さんが撫でてくれる箇所から染み渡るような気持ち良さにぽろ と涙が溢れた。
「 に、 さん、ごめ ね」
こんな謝罪をされても何が何だかわからないはずなのに、かすが兄さんは慈愛の笑みで頷きながらポタポタと落ちて行くオレの涙を拭ってくれる。
「謝ることなんか何もないよ。おかえり、はるひ」
見なくてもわかる、綺麗な形をした爪のついた指先が顔にかかる髪を優しく払い、ゆっくりと休むようにと促す。
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