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「『たった二人っきりの兄弟だろ!こう言う時に助け合わなきゃな!』」
そう言ってくれるけれど、チクチクとベレラ伯爵に言われた言葉の中には、「役立たずの弟にかまけ過ぎているから子供が出来ない」と言ったものもあって。
王が側室をとらないことへの八つ当たりなのは百も承知だけれど、非の打ち所のないかすが兄さんが責められる原因をオレが作ってしまっていることが申し訳なくて……
「『ありがと、にーに』」
そう言うとこれ以上ないってくらい満面の笑みを返してくれるから、負担になりたくなくてぎゅっと唇を閉じた。
もう少し休むようにと優しく、けれど断固として反対させない力強さで言われて、一刻も早くヒロに会いに行きたかったけれど渋々また枕に頭を落ち着ける。
一年前までは見慣れていたはずの薄い紗の天蓋と空の描かれた天井に、テリオドスでの小さな自分の家を思い出してきゅっと胸が詰まった。
小さくて、古かったけれどロカシとマテルの三人で少しずつ自分達の使いやすいように、気に入るようにと直しながら住んだ家だった。確かのこの画家の描いた天井と縁の金細工、美しい布に敵う物ではなかったけれど、あの場所で過ごした一年はとても居心地が良くて……
随分と遠くまで逃げたし、ロカシは別として貴族には近づかないようにしていたのに見つかってしまったのは、やっぱり人間が珍しいからなんだろう。
獣の耳と尾を持たない人々は聖シルル国を出てはるか西に行った小さな国に多いと聞くけれど、本で読んだ知識だったのではっきりとはわからなかった。
でも、
「…………そこまで行けば、見つからないかな……」
ぽつん と呟いた言葉に被さるように、扉の方から控えめなノック音が響く。
「 ────はるひ、起きているだろうか?」
響きのいい、それだけで胸が詰まるようなその声の持ち主は、尋ねておきながら返事を待たずにさっと扉を開いて部屋へと入ってくる。
「よかった。起きていたな」
クラドは旅の衣装とはまったく違う、一目見て仕立ての良いとわかる王宮仕様の上質な黒い光沢のある布地と金の縁取りのされた服を着ていたが、肩章や細々とした飾りは外されて代わりに左肩から右脇にかけて不釣り合いな生活感溢れるスリングが引っ掛かっていた。
いつもなら手放すことのない警護用の剣を探して見渡してみるも、装飾同様見当たらない。
「元気そうだな、スティオンはもう来たのか?」
「はい、もう帰られました。ところで……あの…………」
クラドらしからぬ服装のことを尋ねた方がいいのか、それとも……と考えている間に、クラドはオレの顔をまじまじと見て満足そうに頷いた。
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