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「お前はまだそんな馬鹿なことを言っているのか!」
王の怒鳴り声にもぴくりとも反応せず、腕の中に視線を落としたままゆるりと首を振り、「それがはるひにもヒロにもいいことなんです」と先程と変わらない口調で告げた。
「はるひ、テリオドス領へ行くなら『西』はおかしいですよね?」
「…………っ」
どうしてそれを の言葉が出る前に、エルが目の前の大理石のテーブルに一枚の便箋を置いた。
幾度も書き直して、失敗した分は読まれないようにと細かく千切って捨てたはずだった。それを晒されてしまい、もうすべてがばれているのだと観念した瞬間、堪えていた涙がぽろ と頬を伝って落ちる。
「 っ、ご、め ごめんなさ 」
「泣かなくていいから、僕は怒ってないんだ、クラドだってそうだし、クルオスだってそうなんだ。だから、解決に僕達の力を貸せないかって思ってくれているんだよ?」
「言え 言えな っ」
二人の幸せを願っているはずなのに、いざ自分の口からそのことを言おうとすると嗚咽が邪魔をした。
繰り返し首を振るオレを困ったように見つめると、かすが兄さんは王に向かって顎をしゃくってみせる。
「王を顎で使わないでくださいって常々言っているでしょう!」
その合図に先に気づいたエルが怒りを隠そうともしない声音で言うと、王を制止して執務机の方へ回り込んで何かを手に取り戻ってくる。
それは小さな、指の先程の……
「 ────っ 」
「はるひ、推測の部分もまだありますが、もうすべてばれてしまっていると思ってもらってかまいません」
以前、スティオンが胸の谷間から取り出したあの小瓶が、室内灯の明かりを受けて鈍くも美しい黄色い光を反射する。
それはラフィオの花から染料を取る際に出る黄色い液体で……
「 い、え ない 」
ぶるりと震えに体が震えると、隣に座っていたかすが兄さんがさっと体を抱き締めてくれて、温かい腕で包んでくれる。
けれど、そうされるとなおさら言葉に詰まるようで……
「 っ」
でも、もうオレに逃げ場はなかった。
「……幸せに、なって欲しかったから」
「うん?」
「兄さんと、クラド様の、……邪魔に、なりたくなかったから」
そう告げてしまうと、ぼろぼろと堪え切れない涙が溢れて……
「 ふ、二人の、 仲を、邪魔して ごめんなさ ごめんない 婚姻許可は、オレからも、破棄していただくよう、 おねが っ」
自分を抱き締めてくれる腕にしがみつくのはお門違いだとはわかっていても、他に縋れるものを見つけることができなくて、背中に回している手にぎゅっと力を込める。
「 かすがと、クラドの、仲……」
低い声は一瞬クラドの声に似ていたせいかはっと顔を上げた。
唸り声と、どう言うことかと言葉以外で問いかける雰囲気に飲まれたのか、クラドはヒロを庇うようにして緩く首を振るだけだ。
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