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「なんの話か分からない!」
「僕もだ……はるひ、もう少し詳しく話せるかな?」
言葉が詰まりそうになる度に、かすが兄さんの優しい手が宥めるように背中を撫でて、オレの味方だと言い聞かせるようだった。
「 クラド様は、このゴトゥスの功績で……かすが兄さんを望むのだと、 」
ガタンッ と大きな音が響き、王がクラドに詰め寄ろうとしたのをエルが慌てて押さえつける、けれどエルの文官を代表するような体格で王を止めることは難しかったらしく、引きずられるようにしてついて行くしかできない。
「クラド!」
「なんっ なんのことかわかりませんっ!ゴトゥスの褒章が何かはよくご存じでしょうっ!」
そう怒鳴り返されて少し正気に戻ったようだったけれど、興奮した心情を表すようにその尾は二倍に膨れ上がって今にも爆発しそうに見える。
「どう言うことだ……」
「尾を梳かせていたり、 毎日連れだって散歩したり、同じ部屋に入って行くのだとも……聞きました」
オレを見る全員が困惑を隠せないようだったが、「聞きました」の言葉にクラドの耳がひくりと跳ねた。
心当たりがあるような神妙な顔をして、胡乱気な表情を作ってからそろりと口を開く。
「それは 侍女が喋るただの噂話ではないのか?」
「でも 」
噂に上ると言うことは、それらしい行動があったと言うことで……
「そんな噂話で、ありもしない恋慕を疑われるのは迷惑だ」
本気にするなんて馬鹿馬鹿しい と言うように、大きく溜め息を吐くクラドの態度にむっとしたものを感じて、思わず言葉がきつくなった。
「っ でもっ……それに、オレは クラド様がかすが兄さんの外套の匂いを嗅いで嬉しそうにしているのを、この目で見ました!」
厳めしい顔を幸せそうに微笑ませて、そのふさふさとした黒い尾を確かに振っていた。
これだけは、侍女の噂話なんて言う不確定なものじゃない。
「すごく すごく 幸せそうで……」
思い出して、またぽとん と涙が零れる。
あの盗み見た横顔を……オレは絶対に忘れることはない。
「しっぽまで振って……」
反論できるのならしてみろ と、開き直った心持でクラドを睨むと、オレの目に大した力なんてないはずなのによろよろろとふらついて膝をついてしまった。
「 そっ ちが……違う!いやっ違うわけじゃないが違う!」
かぁ と赤くなった顔で一際大きな声で叫んだせいか、クラドの抱くヒロが小さく声を上げた、それに重ねるように、大きな声が響いて……
「俺ははるひが好きなんだっ!」
その声に驚いてヒロは泣くのを止めてしまったし、オレは呼吸をするのを忘れてしまった。
◆ ◆ ◆
はるひへの思いを叫んだ瞬間、何かが終わった気がした。
きっとこれからの人生、皆の前で叫んだことを揶揄われ続けることとなるのがはっきりとわかってしまい、無垢な目で不思議そうに俺を見ているヒロと一緒に突っ伏してしまいたくなる。
けれど、それを堪えてはるひを見上げた。
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